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−予防接種・感染症対策など−

kenkoushindan.gif (4165 バイト)氏田 由可氏講演より
労働福祉事業団海外勤務健康管理センター 研修交流部小児科医

はじめに

 出国から帰国までの幼児の健康管理をテーマに、渡航前、渡航中、帰国後に分けて問題点をあげてみましょう。

渡航前 健康診断
予防接種
携行薬剤・持病のある場合
現地の医療情報の収集
渡航中 成長・発達
妊娠・出産
教育(学校)
病気になったとき
帰国後 輸入感染症
学校への編入学・逆不適応

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 まず、渡航前の質問で最も多いのは、どのような健康診断をし、予防接種は何を受けたらよいかということです。次に多いのは持参すべき薬ですが、特に、持病のある子どもを連れていく場合は、大きな関心事になります。

 渡航中の問題としては、子どもの成長や発達が順調なのか、それをどのようにチェックしたらよいのか、あるいは妊娠中に渡航した場合や現地で妊娠したとき、出産はどうしたらよいかというようなことに加え、少し大きな学童になると、教育や学校にかかわる問題が出てきます。さらに海外で病気になってしまったら、どこでどんな医療が受けられるのか不安だ、大丈夫なんだろうかというような相談もよく受けます。

 忘れがちなのは帰国後のことですが、今非常に問題になっているマラリアやデング熱など、日本にない輸入感染症がありますし、学童の場合は日本の学校に戻ってきたときにうまく適応できないという、逆不適応という問題もあります。

健康診断について

予防接種に関する問題点

  • ワクチンが手に入らない
  • 接種可能な医療機関が限定されている
  • 経済的負担
  • 時間がない
  • 日本方式の特殊性

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 小児の場合どのような健診が必要かという相談は、企業の方からもよく受けます。身長や体重をはかり、言葉の発達をチェックする程度の一般的な乳幼児健診でもよいのですが、私どもはやはり成人並みの健診をすすめています。

渡航してしまったあとで異常が明らかになると、帰国して治療しなければならないケースもあり、大変なことになるからです。国内で可能な限りチェックを済ませ、何か問題があれば、日本で治療をしてから海外へ行くことが原則ですから、血液一般や胸部のレントゲン撮影など一応すべての検査を受けてもらっています。加えて、歯科検診も必ず受けるようにすすめてください。

海外で良い歯科医を探すのはなかなか難しく、私どものセンターでも、クリニックや病院の情報はたくさん入ってきますが、歯科に関してはあまり情報がありません。治療法も日本と違っており、現地での受診は困難なことが多いので、必ず歯科検診を受けて、虫歯があれば治してから渡航させてください。

予防接種に関する基本的な問題点

 まず、日本では手に入らないワクチンで、世界的には一般的に接種されているものがいくつかあります。また、日本では接種可能な医療機関や接種期間が限定されているワクチンもあります。例えば、黄熱は今のところ検疫所でしか接種することができませんし、ポリオの場合、一般的には保健所または市町村で接種しますが、春と秋の2回しか接種期間がありませんので、夏や冬に海外へ出かける場合、追加接種を受けられないというケースが出てきます。

 また、経済的負担の問題も大きく、渡航前にすべて済ませてしまおうとすると、保険が効きませんので、子どもの分も含めて家族全員で10万円くらいかかってしまうことがあります。企業によっては会社が負担することもあるようですが、まだまだそういうところは多くありません。

 さらに、予防接種を受けるための時間的余裕の問題があります。ご承知のように、生ワクチンの接種後4週間はほかのワクチンを接種できないわけですが、渡航決定後長くて3か月くらい、短いと翌月出発しなければならないというケースもあります。その場合は時間がなくて必要な予防接種を受けられなかったということになりかねません。

 あるいは、日本の接種方式が外国と大きく異なり、この問題でトラブルが起こることも少なくありません。

JOHACの小児・海外健診項目

・身長・体重測定 ・血液一般検査
・視力 ・肝機能検査
・血圧測定 ・脂質、血糖検査
・尿検査、糞便検査 ・腎機能検査
・胸部エックス線検査 ・血液型検査
・心電図検査

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標準的な予防接種の違い

 EPIというのはWHOが推奨している予防接種で、BCG、三種混合、麻疹(はしか)、ポリオの6つですが、これにB型肝炎を加えることもあります。日本ではこのほかに日本脳炎、風疹単独、おたふくかぜ単独(ムンプス)、水痘、インフルエンザを任意で推奨しています。一方、外国では一般的にMMR(はしか・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン)が使われています。外国で使われているMMRは、以前日本で副反応が問題になったMMRとは異なる製品で、かなり安全度の高いワクチンとされていますので、外国でMMRを受けても大丈夫かという相談を受けた場合、大丈夫ですと答えてよいと思います。

 次に、乳児の髄膜炎の主な原因のひとつとして、インフルエンザB菌というのがあります。今でもこれで亡くなる子どもが多いので、アメリカなどいくつかの国では生後すぐから予防接種を始めます。日本でも、インフルエンザB菌による髄膜炎で重症化するケースがありますが、まだワクチンが認可されていないので接種することはできません。A型肝炎、黄熱、狂犬病、コレラについてはあとで触れます。腸チフスも日本では未認可のワクチンです。たまたま私どものセンターで、2000年1月から入手できるようになりましたが、それ以前はほとんど接種できなかったと思います。

接種法の違い

 日本の特殊なところを中心にお話します。

 まずBCGは、途上国ではツベルクリンをせずに生後すぐ全員に打ってしまうところが多いです。先進国でもフランスなどは接種していますが、アメリカでは接種していないので、よく次のようなことが問題にされます。日本でBCGを受けてから渡米してツベルクリンテストをし、陽性だったために結核感染を疑われ、治療を強要されるというケースです。最近はアメリカでも、地域によっては結核がみられるので、BCGに対する認知度が高まってはいますが、イソニアジドの予防内服を半年も続けなければならなかったという相談が時おり寄せられます。こうしたケースは、あとでお話しする英文予防接種証明書を持参したり、胸のレントゲン写真を用意することで回避できます。結核は現在も国内外を問わず珍しくありませんので、乳幼児を海外へ連れていく場合は必ずBCGを打ってもらいたいと思います。

途上国と先進国の接種法の違い

 ポリオも日本だけが非常に変わっていて、2回しか接種せず、しかも経口生ワクチンを使っています。日本を除くほとんどすべての国で3回以上、場合によっては6回くらい接種しています。日本では今のところ野生株からのポリオ発生がなく、根絶されているといってよいと思いますが、外国はそうではないので、海外渡航時は最低でも3回は接種してもらいたいと思います。また、安全性の面から欧米などでは不活化ワクチンの注射をするようになってきていますが、日本では残念ながら不活化ワクチンは導入されていません。例えば、アメリカで生まれて半年過ごし、不活化ワクチンの注射を3回受けたあと、日本でタイプの違う経口ワクチンを接種しても大丈夫なのだろうかという質問もよくありますが、両者を前後して使っても今のところ、効果や副反応に大きな問題はないと考えていただいて差し支えありません。

 麻疹も日本は単独のワクチンしか手に入らないので、おたふくかぜ、風疹と3回別々に打たなくてはなりません。前述のように、外国では一般的にMMRが使われていますが、途上国では単独ワクチンを使っていることもあります。麻疹はまだ小児の死亡原因のトップランクにあがっているので、途上国では1歳まで待たずに、9か月でワクチンを接種してしまいます。ただこの場合、抗体がきちんとできないことがありますから、1歳過ぎに追加接種を受けることになります。同様にMMRの2回接種は、アメリカなど多くの国で導入されてきており、2回接種した証明書がないと入学できない高校や大学もあるようです。

 日本では残念ながら麻疹も勧奨接種なので、接種率が下がってきており、私のいる横浜市などでは、おそらく6割くらいの子どもしか接種していないものですから、春には必ず麻疹がはやります。世界的に見て、麻疹ワクチンの接種率がこれほど低い国も珍しく、現在、日本は麻疹の輸出国といわれています。実際、アラスカやアメリカへ日本人旅行者が麻疹を持ち込み、現地で流行してしまったというような報告や非難をしばしば受けることがあります。ですから、すすめられている予防接種のなかでも、麻疹は必ず接種してもらいたいと思います。子どもだけでなく、親も若い世代になると未接種者がいるので、必ず確認して麻疹だけは打ってから行ってください。

A型肝炎とB型肝炎

推奨される予防接種

 小児がA型肝炎にかかっても、ほとんどの場合かぜのような軽い症状で済んでしまいますから、強くはすすめていません。ただ、このウイルスが子どもの便から排泄されて親にうつってしまうことがあり、成人がA型肝炎にかかると1か月程度の入院を必要とするので、そのあいだ子どもの世話は誰がするのかということになります。したがって、A型肝炎は子ども自身にあまり心配がなくても、周囲への影響があるので接種する方がよいという意見もありますが、まだ小児科医のなかでコンセンサスは得られていません。

 B型肝炎に関しては、成人と異なり、小さな子どもでは水平感染の危険性があるので、アメリカなどでは全員接種をしています。東南アジアなどキャリア率の高い地域では、使用人がキャリアであることも多く、メイドやシッターがいつも赤ちゃんに触れていると感染してしまう恐れがあります。したがってB型肝炎の予防接種はやや優先順位が高いといえます。しかし、先ほどお話ししたように、まずBCGやポリオ、麻疹などの定期接種が最優先ですので、それを済ませてから次の優先順位を考えていただければよろしいかと思います。

狂犬病・日本脳炎・コレラ

 狂犬病は日本では発生しませんが、外国ではそれほど珍しい病気ではなく、アメリカでも年間数人が死亡しています。途上国で狂犬病にかかっている犬がたくさんいるところでは、優先順位は高くないけれど接種をおすすめすることもあります。ただ、ワクチンの安全性が、小児の場合まだ確立されていないこともあり、動物にかまれたとき、すぐ駆け込める病院を確保する方が重要です。実際には狂犬病まで接種する時間的余裕や経済的余裕がなくて、打たずに出かけている方が多いと思います。

 日本脳炎は日本でも定期接種に入っていますが、中国など東アジアや東南アジアへ行く場合は、日本並みの優先順位で打つことをすすめています。ただ、都市部ではほとんど発生しておらず、中国やベトナムの病院で見かけた日本脳炎の子どもたちは都市でかかったのではなく、豚を飼っている農村でかかって、都市部の病院へ運ばれたケースがほとんどです。日本人が赴任するような都市部ではほとんど発生しないと思ってよく、優先順位がそれほど高いわけではないのです。

 コレラについては現在、入国に際しコレラワクチンを接種の必要な地域はありませんから、すすめていません。

海外で予防接種を受ける場合

海外における予防接種の特徴

  • 同じ日に2種類以上のワクチンを接種する。
     正しい組み合わせであれば医学的には全く問題がない。
  • 不活化ワクチンでは筋肉注射をすることがおおい。
     日本では通常皮下注射。
  • 乳児では注射部位として大腿四頭筋外側が好まれる。
     筋短縮症の心配はほとんど不要。

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 日本で接種を受けることができなかったものについては、海外で打つことになります。外国には先進国はもちろん途上国でも、保険会社と提携した外国人向けのクリニックがあることが多く、お金はかかりますが、英語の通じるそうした病院やクリニックであれば、大きな問題なく予防接種を受けることができると思います。また、日本では手に入らないワクチンもあるので、必ずしも現地で受けない方がよいというわけではありません。

 その際、心得ておかなければいけないのは接種法の違いです。海外では三種混合のほかにポリオ、インフルエンザ、BCGを一度に打ってしまうとか、A型肝炎とB型肝炎を一緒に打ってしまうことが一般的にありますが、正しい組み合わせであれば問題はありません。日本でも医師の判断で同時複数接種をしてよいことになっていますが、日本の医師は慎重なので、実際にはなかなか同時接種をしてくれるところがありません。

 また、不活化ワクチンは外国では筋肉注射をすることが多いのですが、日本では皮下注射が標準で、予防接種の手引きを見ても筋肉注射はしないことになっています。海外では、赤ちゃんはももの外側に、3歳くらいになると肩の上、三角筋のところに打ちます。日本で筋肉注射をしないのは筋萎縮症があったからですが、外国ではそのような報告はほとんどなく、筋肉注射をしても差し支えありません。

海外では個別接種が原則/予防接種証明書

海外における予防接種の特徴

  • 国で決められた予防接種スケジュールとは別に、個別に種々のワクチンを接種することができる。
     費用は自費
  • 予防接種被害の救済に対する法的整備がなされていない。
     日本のように整備されている国はまれ
  • 小学校や幼稚園の入学時に予防接種証明書を要求されることがある。

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 日本ではポリオとBCGは保健所や市町村で集団接種し、他の定期接種については母子健康手帳に別冊があって、各医療機関で無料で受けられるシステムになっていますが、海外では個別接種・自費負担が原則です。

 また、日本では重い副反応など予防接種被害が出た場合、法的救済制度が整備されています。しかし、このような制度は外国ではカナダやイギリスなど一部にはあるようですが、ほかではほとんど整備されていません。

 さらに、外国で学校や幼稚園に入学する際は、英文の予防接種証明書を要求されます。日本では予防接種を受けると日付や接種医師名などを母子健康手帳に記録しておしまいですが、これを持参しても外国では通用しません。したがって、母子健康手帳のほかに、予防接種証明書を用意しなければなりません。

 下のサンプルは私どものセンターで発行している英文予防接種証明書です。このように本人の名前、年齢、国籍、接種したワクチンの種類、日付、ロット番号、それと証明書を書いた医師のサイン、医療機関名と所在地が記載されていれば、書式にはこだわらないことが多いようです。学校によっては、決まった書式の予防接種証明書を要求することもあるようです。予防接種証明書はどこの医療機関や医師でも書けますので、接種した医療機関やかかりつけ医で書いてもらってください。日本の場合は接種を受けた医療機関が複数あることが多いでしょう。しかし、接種を受けたすべての機関に行かなければならないというわけではなく、医師が母子健康手帳を見て証明書に転記をし、サインをすれば十分です。

   予防接種証明書の例
予防接種証明書の例
拡大図

持参すべき医薬品

携行薬品リスト

 子どものために持参した方がよい医薬品ということでは、随分たくさんの種類があげられるようですが、外国で入手できるものも多いので、あまり神経質になってそろえる必要はないと思います。ただ、海外で手に入れにくいものがいくつかあります。
 一つは、アンヒバ坐薬のような解熱鎮痛用坐薬です。外国では、アセトアミノフェンのシロップが使われることが多いので、坐薬に慣れている場合には、かかりつけ医師に少し多めに処方してもらって持参するとよいでしょう。

 次に、抗生物質やかぜ薬は、お金を出せば先進国でも途上国でもほとんど同種類のものが手に入ります。ただ、飲みやすい日本独特のドライシロップは、外国ではなかなか手に入りません。粉薬はありますがパウダー状で、まずく飲みにくいものです。外国の小児科では、甘ったるいシロップの薬が出ることが多いので、どうしてもドライシロップがよいという場合は日本から持参するようにしてください。ほかに必ず持参しなければならないというものはありません。ただ、目薬や軟膏など、日本では子ども用に少しマイルドなものが売られていますが、外国ではあまり見かけませんので、それに慣れていれば少し多めに持参しましょう。日焼け止めも日本のものがよければ持っていくとよいでしょう。

 ほかに、マラリア流行地域などに行く場合、外国の虫よけスプレーやローションは非常に濃いということも、心にとどめておきたいものです。日本の、特に子ども用の虫よけは薄いので、頻繁に塗り直さなければいけないという問題はありますが、アトピーや湿疹のある子どもにはあまり強いものを使いたくないので、そのような場合は、日本の虫よけスプレーを持参するのもよいと思います。

 特に、持病のある子どもを一緒に連れていく場合には、必ず英文で病名と処方内容を記した診断書を持参するようにしてください。その際、診断名と薬の内容だけ書いても通用しないことが多く、それまでの簡単な経過を英語で記載してもらうことが必要です。