ニュージャージー州エッジウォーターはハドソン川をはさんでマンハッタンを一望できる町で、周辺は日本食スーパーや医療機関もあり日本人にとっては大変住みやすい町です。今回お邪魔したNJぷりまむ倶楽部は、エッジウォーター・ファミリー・ケアー・センターという日本人向け医療施設のオフィスを借りて行われていました。NJぷりまむ倶楽部の主催者は駐在歴9年の仲山淳子さん。仲山さんが駐在で来た頃は、年配の駐在員の方が多かったそうですが、最近では、多くの企業が若い社員を妻帯同で送る傾向にあるようで、勢い、駐在間もなくして妊娠、出産を経験する方が急増しています。そんな中、妊婦さん、育児中のママが気軽に集えるNJぷりまむ倶楽部は、砂漠のオアシスのように大切な場所になっています。

チャイルドシートの付け方を実演、説明する「ぷりまむ倶楽部」主催の仲山さん

仲山さんご自身も、この町で二人の出産を経験して、妊婦さん新米ママさんにとっては気軽に相談できるお友達が絶対に必要と感じ倶楽部を発足したそうです。友達と二人で始めた会が、たった2年足らずで70人もの会員を抱える倶楽部に発展しています。

活動は一ヶ月に数度行われるテーマを決めた講習会、そして気軽におしゃべりをすることが中心のお茶会です。取材にお邪魔させていただいた日は、10人の妊婦さんが参加しており、仲山さんが徹夜で作り上げたチャイルドシートとベビーカーに関する資料を参考にしながらの講習会でした。車で一時間もかけて来たという初めての参加者の方もおり、ぷりまむ倶楽部の吸引力と魅力、そして多くの人に必要とされているということを感じました。(4月だけで新会員が13人だそうです。)

お子さんの年齢を教えてください。
5歳の長男(99年生まれ)と、1歳の次男(04年生まれ)がいます。

駐在歴は?
最近は、答えるのが怖いです…(笑)96年3月に来たので、9年になります。

いつ会を始めましたか?
二人目を妊娠中の03年9月に友人と共に立ち上げ、
翌月10月に第1回目のお茶会を行いました。

日本でも、同じような会に参加したことがありますか?
長男も次男もアメリカで妊娠・出産しているので、日本の妊婦さんが集まる会には参加した事がありません。でも、一時帰国する度に、友人から様子などを聞く機会はありました。

参考にした会はありますか?
NJ生活情報誌「おしゃべり たんぽぽ」で行っている『来たばかクラブ・お茶会』でしょうか。これは、NJへ来たばかりの方を対象に、お友達作りのお手伝いや、スタッフが身近な疑問にお答えしたりしています。たんぽぽでは、他にも様々なイベントを行っています。私は、長男が3歳の時にたんぽぽのスタッフを始めたのですが、こういった活動を目の当たりにすることができて、自分の中で経験とボランティア精神とが結びついた結果、NJぷりまむ倶楽部が出来上がったと思います。



仲山さんが、この会を始めたきっかけは?
私が長男を出産した当時、日本人のお友達が2人しかいなかったんです。というのも、NJへ来てから、英語の必要のないボランティア活動(アニマルシェルターでの犬係りや町の樹木園のガーデナー)をしていたので、日本人と接する機会が殆どありませんでした。でも寂しくなかったんです。今考えると若さかな(笑)と思いますが。妊娠中は、その2人のお友達の間を行ったり来たりしながら、彼女達に色々と出産について教えてもらいました。妊娠中に両親学級などにも出ましたが、お友達になるまでにはならなかったですし、出産して間もない人と出会うチャンスはありませんでした。

私が産後1ヶ月ごろ、唯一のお友達が2人とも帰国になってしまったんです。かなりショックでした。ご存知の通り、産後はホルモンのバランスなどが影響して、感情の起伏が激しくなりますし、赤ちゃんのお世話で毎日、いや毎時間新しい疑問にぶつかります。初めての子ですから、主人に聞いても解決できる訳がありません。おっぱいをあげて、オムツをかえて、寝かしつければ、もう夕方…夕飯の支度をすれば、子供は泣き始める。そんな毎日の繰り返しで、とうとう自分の気持がコントロールできなくなり、爆発しました。主人に号泣しながら電話をし、受けた主人も慌てて帰ってきて、そこで何が足りないか、何が必要かが分かったんです。

講習会の後のケーキをお茶をしながらのおしゃべりも大きな楽しみの一つ。

『気軽に相談できるお友達』…ママ友達が直ぐに必要でした。お友達ができてからは、すっかり育児が楽しくなり、母親としての自信まで持てる様になりました。どこの地で出産・育児をしていても、日々の疑問にそう違いは無いと思います。だから、私のような経験をされている方は、実は沢山いるのかも知れません。でもこの経験は、体験する必要はないはず。私だけで十分!そう思いました。本当にお世話になったお友達が帰国する前に、私は、お礼をしたいがもう時間がない…申し訳ない、と謝りました。彼女はそのときにこんな言葉を残していきました「私はただ、できることをしただけ。私が出産をした後も、友達に助けてもらったの。もし、これから自分と同じような立場の人と出会ったら、その人に恩返しをしてあげて。みんな順番だから」と。サラッと聞き流せばそれまでですが、私には、この言葉がずっしりと心の深い場所に入り込みました。この苦い経験と、アメリカに来てから学んだボランティア精神、そして友人の言葉が“妊婦さんのための場所”を作りたいと思ったきっかけになったのだと思います。

ヘルプしてくれる人はいますか?
いつも私は、誰かに助けられています。本当に有難いと思います。二人の子供をとり上げて下さった永門洋子先生が「私で出来ることなら…」と、時間の許す限り、お茶会で妊婦さんの質問に直接答えてくださってます。会を立ち上げる時は、私の背中をポーンと押して支えてくれた友人がいました。また、駐車場の問題で、どこか場所を貸してくれないかと思っていた時には、別の友人が(野口人間ドックとの)間に入って交渉してくださいました。毎月のお茶会では、ケーキのピッ

クアップ、セッティング、片付けなどを、その時の出席者で動ける人達がお手伝いしてくれます。そして、運転がまだできない方や、途中までバスで来られた参加者のピックアップも他のメンバーが快く引き受けてくださいます。そういう一人一人の優しい気持ちで、この会が前進していけるのだと、いつも感謝の気持で一杯です。ボランティアの醍醐味の一つだと思っています。

永門先生(左)。24時間いつでも相談に乗ってくださる妊婦さんにとっては救世主のような存在。アメリカに二人しかいない日本人助産師さんのうちのお一人。

最初どのように人を集めましたか?
『妊婦さんのためのお茶会』としてパソコンでチラシを作り、それを日系スーパーと産婦人科などに貼りました。貼った2日目までドキドキでしたね。3日目になると、そのドキドキがしぼんで、しょんぼりです(笑)。個人が行うボランティアですから、怪しい者かと勘違いされたり、会の終了後に何か売りつけられるんじゃないかと思われるのでは…なんていう想像が頭の中でぐるぐる回っていました。連絡があった時は嬉しかったですね、本当に嬉しかった。たとえ一人でも行おうと思いました。

結局、その後定員になり、第1回目から10名が集まりました。その後は、参加希望者が徐々に増え、月に2回行う時もありました。私が出産をするまでの限定でこの会を作ったのですが、結局それでは他の妊婦さんに対して申し訳ないと思い、産後1ヶ月で再開、この地にいる限りは続けていこうと決めました。そうして去年1年間での延べ人数は120人を超え、私も大変驚いている毎日です。

会では、いろいろな講習会をやっているようですが誰がどのようにテーマを決めて、どのようにアレンジしているのでしょう?
テーマを決め、資料を作成して行うようになったのは、実は最近なんです。以前は、自宅で行っていた事もあり、その時の話の流れで、産前・産後などに使用したものを実際に手にとって見てもらいました。この会では、まずお友達を作る事が目的です。初めて来た方の中には、知らない人達を目の前にして、何をどう質問していいのか分からない人もいます。出席者全員が、一つの テーマを共有して情報交換をすると、自分が気がつかなかったことを知れたり、直接お互いに話をする前に、相手を少し知れる良い時間が持てると思いました。テーマは、私自身が疑問に思ったり、便利だった情報を経験を元にまとめています。内容は、赤ちゃんのケアーが中心です。肩のこる会ではないので、おしゃべりの合間に妊婦さんから次のアイデアを頂いたりもしています。
 

運営の苦労は?
時間の使い方があまり上手ではない方なので、主婦業と上手く両立が出来ない点ですかね。でも最近は、主人も目をつぶってくれることが多くなりました(笑)。感謝してます! お茶会の日は、長男をベビーシッターへ預けて、次男はメンバーのママ達に見ててもらい行っていますが、まだ子供達も小さいので、後悔しないようにもう少し手をかけてあげなくちゃいけないなぁとも思っています。

やってよかったと思えることは?
自分が主婦業を離れて没頭できる、しかもやり甲斐があるので、ある種のストレス発散になっています。子育て以外で主人との会話が持てるようになり、以前より良い関係になったと思います。しかし、何と言ってもボランティアの醍醐味(お互いが助け合い、感謝でき、喜び合えること)を味わえているという点が一番でしょうか。

不安でいっぱいだった妊婦さんが、いよいよ出産という前に「この会のおかげで、全く不安なく出産に挑めます。」とメールを頂いたり、「この会が無かったらと思うと、今頃どうなっているのか…。本当に楽しい妊娠生活が送れました。感謝しています!」と目を潤ませながら言って下さった方もいました。この会を通して沢山の方の不安がなくなり、楽しく育児ができている現実を見て、非常に嬉しく思っています。

狭い日本人社会では、人間関係を良好に保ちながら会を続けていくことは大変なことだと思いますが、その点、何か注意している点とかはありますか?
幸い、私が出会っている方達は、本当に皆心の優しい方ばかりなんです。私は、この会の管理人ではあるけれども、同時にメンバーの一人だと思っています。まとめ役ではあるけれども、一緒に子育てをしていく仲間だと思っているんです。いつも他のメンバーに支えられていることを忘れない様に心がけています。

これから、何か母親グループを作ろうとする方にアドバイスはあるでしょうか?(人集めの方法、会をうまく動かしていく方法、まとめていく方法、広めていく方法など。)
お母さん同士仲良くなったからと、安易な気持で始めても長続きはしないと思います。お互いにルールはしっかりと決めて、変更が必要な時はそれを伝える。自分の意見を相手に伝えられる状態を、グループ内で作っていかなければいけないと思います。日本人は(私も含めて)相手に伝えることが、どうも苦手です。言わなくても分かるでしょ?という傾向が強いですよね。いい関係を保つためには、何でも話せる・聞ける状態でいることが大切だと思います。

子育ては家庭それぞれで教育方針も違いますし、子供が大きくなるに連れて、もめ事も頻繁になり、子供同士が衝突するのは、当たり前になってきます。相手に良くないことをしたら、その場で直ぐに謝ること。これも大事ですね。
この会を作ってみて分かったのですが、こんなグループないかしら?と思っていたのは、私一人ではありませんでした。多くの人が心の中で同じことを考えていたのです。ただ私は、それを声に出し、行動してみました。少し勇気のいることかもしれませんが、出来ない事ではありません。マイナスな結果を想像しても、声に出して一歩前進してみてください。きっとプラスに転じるはずです。


仲山さんご自身、日本に帰られてから何かやってみたいと思っていることがありますか?駐在員の妻として、これから駐在してくる同じような立場の方に何かアドバイスはありますでしょうか?駐在で来て良かったと思うことはなんでしょう?反対に悪かった点はあるでしょうか?
駐在ならばいつかは帰国…ですね。まだまだ帰る前にやりたい事が山ほどあるので、今まで日本へ帰るということは、正直考えた事がないのです。…そうですね、ぷりまむ倶楽部の日本支部(?)は作ってみたいですね。日本は、妊婦さんや小さい子供を持つお母さんに対して、アメリカと比べるとどうも冷たい所があります。そういう風向きを、少しでも変えられるような運動をしてみたいですね。

私のような者がアドバイスなんて出来る立場ではありませんが、知らない土地へ来て、日本から来ているというだけで、周りの方がとても親切に助けてくださいました。駐在だから…という偏見も、一部の人は持っておられたりするようですが、そういう見方で範囲を狭めるより、日本にいたら出会えないだろう方々と会えるチャンスを大いに楽しみ、影響を受け、何かを見つけて日本へ持ち帰り、生かしていけると一番いいのではないかと思います。“まるで夢のような駐在生活”で終わらせない気持が、大切ではないでしょうか。これは、駐在に限ったことではないとも思います。それと、海外に出れば日本を外から見ることが出来ますし、他の国の中を知ることが出来ます。良くも悪くも、教科書では学べないことを沢山知りました。

その他、なんでもありましたら、ご意見をお聞かせください。

人に「どうして妊婦さんが対象なんですか?」と聞かれることがあります。これには理由があります。勿論私が妊婦だった事もありますが、産後の大変な時期を少しでも楽に乗り越えるため、なのです。妊婦の頃から、先輩ママや同じ初産の仲間が持てると、産後直ぐに直面する疑問に対して、アドバイスしてくれる人がいます。本当に小さいことでも気軽に聞ける場所が有るのと無いのとでは、精神的にかなり違います。“出産は夫婦の危機”なんていうのも聞いたことがありますが、今まで見えなかった部分が夫婦間で表れて、喧嘩の原因にもなったりします。全ての家庭がそうではありませんが、大抵一つや二つは出てくるのではないでしょうか。子育てだけではなく、こういうことを相談できるのも、妊娠中からお友達でいるからこそ、だと思うのです。

<インタビューを終えて>

★テーマを決めて、ただ漠然とそのテーマに沿って意見交換するのではなく、かなり詳しい情報を手元に準備して講習会的な要素を持たせていることも魅力の一つでしょう。たとえば、今回のテーマはチャイルドシートでしたが、アメリカのチャイルドシートに関する法律、シートの種類、シートの正しい設置法など、大変詳しい2〜3ページの情報が皆の手元に渡され、仲山さんが実際にテーブルの上にチャイルドシートを置いて約1時間半にわたって質疑応答もまじえながら説明していました。

★このような情報入手が可能になったのは、やはりインターネットの力も大きいですが、実際にその国の言葉で書かれているものを収集できるだけの語学力を持っていることも、このような講習会には必要不可欠ではないけれども大きな助けになると思いました。

★また仲山さんがインタビューの中で述べているように、仲山さんの周りには、仲山さん講義中に彼女の赤ちゃんをベビーシッターしてくれる仲間、お弁当やケーキを準備する仲間がいることも会を長期にわたって運営していく上での不可欠要素でしょう。

★ぷりまむ倶楽部が、これだけうまく行っているのは、自分の時間を惜しげなく捧げて没頭するグループの核となる存在が大きいと思います。

NJぷりまむ倶楽部のホームページhttp://premomclub.fc2web.com

海外で活動するプレママや育児サークルの皆さん!どんなに小さなグループでも構いません。ご連絡くだされば取材させていただきます