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出国から帰国までの健康管理
−予防接種・感染症対策など−

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渡辺 洋子
東京都健康局医療サービス部子ども医療課(現・世田谷区世田谷保健福祉センター健康づくり課)

平成15年度海外母子保健情報セミナー

東京都

会場 東京ウィメンズプラザ
日時 平成16年1月26日(月)
主催 財団法人 母子衛生研究会
後援 厚生労働省
社団法人 日本経済団体連合会


自分の健康は自分で守る

 みなさんこんにちは。紹介いただいた渡辺と申します。元一般小児科医ですが、私自身ここ数年間、JICA(ジャイカ)の仕事で海外勤務をしていた経験もあって、今回講師を務めさせていただきます。
 今日は出国から帰国までということで、赴任される方の事情はさまざまですが、基本的には母子、夫と一緒に行く妻と子どもということでお話ししていきたいと思います。

 最初に、自分の健康は自分で守るということが何よりも大切なことだということを申し上げておきます。今日ご参加の方たちは、企業で海外赴任の窓口をされていたり、行政で保健師などをされている方が多いと思いますが、日本は、いい意味でシステムができています。例えば、予防注射の通知も子どもの健診も市役所や区役所から連絡が来たり、広報に載っていたりします。学校へ行けば、1年に1回とか2回、きちんと健診をやります。そのようなシステムは海外にはまずないと考えてください。また、日本は国民皆保険ですから、医療費の自己負担が少ないですね。しかし、海外でもそれがきくものだと思っていてはいけません。そういう意味で、とにかく自分の健康は自分で守るということを肝に銘じてください。

 そのうえで、これは日本の生活でも同じですが、病気にならない、けがをしないため、つまり予防という意識が必要となってきます。最近は日本でも治療よりは予防という方向性がかなり浸透してきていますが、海外ではそれがもっと必要です。

 基本はよく寝る、よく食べる、ストレスをためない、そういう規則正しい生活をするということが大切です。
 もう一つは予防接種です。流行の病気にかからないで済みます。予防注射をすることによって防げるものは防ごうということです。それが基本的なスタンスだと思ってください。また、いざというときの準備もしておきましょう。これについては後で詳しくお話ししたいと思いますが、みなさんが使い慣れている内服薬、消毒薬、包帯などは携行していくということですね。同時に、日本にいる間に機会があったら、救急蘇生法とか応急手当の仕方をぜひ身につけておくことをお勧めします。

 現地に着いたら、なるべく早くかかりつけの医師を見つけてキープしておいてください。これは日本でもそうですね。最近、家庭医、ホームドクターを持つことを、国の政策としてもどんどんみなさんにアピールしています。日本にいてさえも、病気になる、けがをするということは、日常のなかではすごくストレスがかかることなのです。海外ではそれがもっと大きくなります。ですから、どこのドクターにかかったらいいか、夫、妻や家族、もしくは日本人会などのネットワークのどこに連絡したらいいか、そういうリストを万全につくっておいてください。そして、ときどきアップデートすることも大切です。

 医療保険に関しては、海外では自分でいいものを見つける、探すということしかありません。企業から派遣された方の場合は企業でカバーされたり、日本の健康保険がそのまま海外でも使えるような形になっていることもあると思いますが、そのほかには、海外旅行傷害保険とか、海外で入院もカバーするパターンの生命保険もあります。ですからいまみなさんが加入している保険でどれだけカバーできるか、よく見ておいてください。もし追加するとしたら、現在の保険でカバーされていないものに焦点を当てた傷害保険に入るようにしてください。

 もう一つは、私の親しい友人の生の情報でそうだなと思ったのですが、こういう傷害保険や生命保険は妊娠中の健診や出産はカバーしないというのがけっこう多いということです。そのあたりはポイントです。

 それから、日本の健康保険を海外で使った場合、とりあえず立て替え払いをし、後で日本の保険会社に請求して還付されるということがあります。ここで気をつけなければならないことは、あくまでも日本の健康保険ですから、日本の基準で算定されるということです。例えば、海外でのドクターのコンサルティングフィー、つまり診察料は、スペシャリストですと大変高い金額を請求されることがあります。それに対して、日本の健康保険は、日本の保険点数に替えたらどうなるかということを基準にしますから、みなさんが海外で支払わなければならなかったお金の7割から8割返ってくると思うのは無理なことが多いのです。そのうえ、還付されるまで時間がかかるということも、一応考えておいてください。

 出国前にはまず、健康診断を念入りに行ってください。法的には、6か月以上の赴任の場合は義務となっています。基本的には、企業とか学校などで行われる一般定期検診の内容と同じでいいです。子どもの場合ですけれども、例えば私がJICAで赴任したときには、一般的な聴診とか、目や耳、身長、体重などのチェックだけで、血液検査はとくに要求はされませんでした。後で情報のところで提示しますけれども、労働福祉事業団がやっている海外勤務健康管理センターのドクターたちは、小児でも病気がないということを確認していったほうがいいということで、血液検査や尿検査などを勧めています。そこはみなさん個々人の判断でということになります。子どもの場合には、生後6か月以上で、必要最低限の条件をクリアしていればオーケーというのが現状です。

 歯科健診は忘れずに受けてください。海外では、歯科の治療というのは、風邪やけがで受診するよりも大変です。お子さんもぜひやってから行ってください。余談ですが、子どもの虫歯というのは実は、お母さんの口、口腔内にある菌がうつってかかりやすいと言われています。ですから、とくに小さいお子さんを持っている場合に、お母さんが噛んで小さくしてからお子さんにあげるということをよくやりますが、実はよくないのです。さらに、妊婦や小さいお子さんを持っているお母さん自身の歯の治療ならびに予防が子どもの虫歯予防に直接つながりますから、ぜひ積極的にやるようにしてください。

 糖尿病、それからお子さんの喘息やアトピーなど、慢性の病気がある場合には、常備薬を多めに持参するようにしてください。当然、赴任先で医療機関を見つけることになりますが、赴任直後というのは落ち着きませんので、とりあえず、1か月から2か月分くらいのお薬を持っていったほうがいいと思います。最近では医療機関で4週間分くらいのお薬を出してもらえるようになりました。それ以上になると自己負担になってしまう場合もありますが、持病のある方にはお勧めします。

 それから英語の診断書です。かかりつけのドクターに書いていただくか、もしくは診断書を書くサービスをしている渡航者向けのクリニックもありますので、そういうところをご利用ください。ラテンアメリカだからスペイン語でないと駄目なのではなどということは気にしないでください。医師の場合にはだいたい英語で大丈夫です。会話になると、とくにラテンアメリカのドクターなどには、英語では難しいという方がけっこういらっしゃいますが、少なくとも書かれたことに関しては問題ありません。

 その際に気をつけてほしいことは、服用している薬の名前です。例えば、子どもさんの解熱剤では、日本では一般名がアセトアミノフェンというのがいま一番ポピュラーですが、ドクターが処方された処方箋などを見ると、カロナールとかアンヒバあるいはアルピニといった、いわゆる商品名が書いてあります。製薬会社によって名前が違うのです。カロナールとかアンヒバなどと書かれてしまうと、赴任先のドクターは、これは何だとなります。ですから、薬の名前はぜひ、アセトアミノフェンというように一般名で書いてもらってください。抗生剤ですと、ケフラールと処方箋に書かれる名前はセファクロールとなります。喘息の薬で、子ども用に多いのがテオドールとかテルバンスというものですが、その一般名はテオフィリンです。一般名で書いてもらえば、赴任先の医者にその国で使われている処方のお薬を出してもらうことができます。

 母子健康手帳も必ず持っていってもらいたいものです。以前は、個々の母子健康手帳をまるまる英訳するサービスをしていた企業を利用することもあったのですが、いまは、例えば、こちらの母子衛生研究会で作成している英語・日本語併記の母子健康手帳などがあります。一般に使われている母子健康手帳でも、とくに予防注射のところは日本語と英語が併記になっていますので、少なくとも母子健康手帳の記録に関してはわざわざ英訳する必要はありません。あとは必要なものだけ、例えば持病がある場合はその診断書を持っていく。あるいは、発達の記録などで気になる部分は、その部分だけ英訳してもらうということでほとんど問題ないと思います。

予防接種について

 次に、予防注射の話に移ります。予防注射というのは、みなさんが住む環境のなかに多く存在する感染症を予防するために行うものですから、日本でこれとこれとこれの注射をしているからいいんだというということではなく、滞在国の状況に合わせて必要なものが増えてきます。

 私もバンコクやインドネシアで調査したことがありますが、小さいお子さんを連れて海外に滞在されている方などにアンケート調査をすると、予防注射のスケジュールが日本と全然違うので、これでいいのかという不安が大変多く見られます。逆に言えば、日本の予防接種スケジュールが非常に特殊なのです。「日本の常識は世界の非常識」の最たるものがこの予防接種のスケジュールだと思ってください。

 例えば、ポリオの予防接種を2回しかしないのは日本だけです。アメリカやフランスなどの欧米諸国では3回以上が普通です。それからワクチンの素材もかなり特殊です。日本はどちらかというと海外より優秀なものが多いです。なにより副作用が少ないのです。海外のものは発熱が多かったり、打ったところが固くなって腫れるというようなことがあるのですが、日本の、とくに三種混合などは副作用の発熱を抑えるような改良を重ねたワクチンが一般的に使われています。そういう意味では、日本での接種をお勧めする場合もあります。これについては後でもう少し詳しくお話しするつもりです。

 予防接種は、赴任が決まったらなるべく早く受けてください。今日は学校関係の方がいらっしゃらないようですが、いろいろな国に日本人学校があります。教員の派遣も4月からの赴任になりますが、それが分かるのが2月の半ばというのが多いようですから、赴任までひと月からひと月半です。その間にできる予防注射というのはすごく限られてしまいます。予防注射をしっかり日本で済ませて安心して出国するためには3〜4か月、場合によっては6か月必要な場合もありますので、赴任が決まって一番最初に考えるべきことは予防注射だと言っても過言ではないと思います。ドクターに相談しながら接種スケジュールを立ててもらって、順序よく接種するようにしてください。

 それから、日本では通常、子どもさんへの接種スケジュールでは1回に1種類しか接種しないのですが、医学的には複数打っても問題はないということが証明されています。したがって、出国日が決まって間に合わないというときには、複数のワクチンを同じ日に打つことは十分にありえます。そのことでこのドクターは変だと思わないでください。

 一方、赴任国で必要だと言われていても日本では打てないワクチンがけっこうあります。後で細かくお示ししたいと思いますが、そうなったら腹をくくって現地で受けてください。基本的にはWHO(世界保健機関)というところがワクチンの質をコントロールしています。大手メーカーでしたらまず基準をクリアしていますので、海外の商品名を知らなくても、心配されることはありません。途上国などで保管や管理がしっかりしていない場合がありますが、ただ日本人の方が受ける医療機関としては、それなりのレベルをキープした医療機関が海外、とくに首都では必ずといっていいほどありますので、それほど神経質にならなくていいのではないかと思います。

 保管管理がしっかりしていないというのはどういうことかと言いますと、例えばワクチンは冷蔵保存しなければなりません。ところが、よく停電するような国で、夜間14時間停電したりすると、その間に質が悪くなります。腐って害を及ぼすというようなことではなくて、効果が落ちてしまうのです。持参する薬も同じです。先ほど2〜3か月分持っていってくださいと言いましたが、例えば、シロップは基本的に冷蔵保存ですから、保管が悪ければ、同じ量を飲んでも効果がどんどん落ちてしまいます。
 予防注射を日本で打った場合には、必ず証明書を持参してください。それから、海外赴任の場合、まずA国に行って、しばらくして今度はB国へ行く、その間に子どもさんもだんだん大きくなっていって、小学校、中学校、高校、時には大学へ入学するというようなこともあります。その際、証明書を必要とする国が、とくに欧米では多いですから、海外で打った予防注射も必ず記録としてとっておいてください。みなさんが持っていらっしゃる母子健康手帳に追加して証明書を持っていってもらうのが一番いいです。海外で打った予防接種は、証明書もその国で書いてもらうほうがよいでしょう。
 
接種が望ましいワクチン

 次に、小児を中心にして、接種が望ましいワクチンについて話してみたいと思います。まずは定期接種を終わらせるようにしてください。日本の場合、定期接種の最後が麻疹で、生まれてからだいたい1歳半くらいまでにとりあえずの定期接種は終わります。その後、3歳から日本脳炎など小学校入学前までいろいろと予防注射との関わりがあるのですが、麻疹までの予防注射は、場合によっては6か月や7か月、8か月くらいに時期を縮めて終えてしまうこともできますので、ドクターと相談するといいでしょう。

 BCGは途上国では必須です。日本でも最近、結核がまた増えてきているということで問題にはなってきていますが、途上国では結核はポピュラーですから、必ず受けるようにしてください。日本ではBCGは生後3か月過ぎないと打ちませんが、医学的には生後すぐにでもオーケーです。逆に先進国、とくにアメリカではBCGの接種はしていません。日本でツベルクリンとかBCGを受けてアメリカに行くと、結核にかかっているのではないかと疑われることもあります。そういう意味でも、英文の接種証明書が必要となります。

 日本の場合、BCGはスタンプ式で、9つの点の跡がつくものを2回行いますね。跡が残りにくくてちゃんとつくという、非常にいいスタイルなのですが、このスタンプ方式は日本など一部の国だけです。海外では注射です。0.5ccをきゅっと打つと、硬結といってけっこう固くなったり、跡が残ったりすることもあります。美容上の問題はありますが、医学的にはどちらも同じです。日本でも、早くて来年度、ツベルクリンなしで実施するようになると思います(編集部注:2005年4月から日本でもツ反なしの接種。接種時期も「生後すぐから6か月未満まで」となる)。それからポリオです。これはぜひ強調しておきたいのですが、先ほども言いましたように通常、日本では子どもは2回しか接種を受けていません。ですから3回目を必ず受けるようにしてください。日本は生ワクチンを口から飲みますが、一部の先進国では不活化ワクチンを注射します。どちらも効果のうえではとくに問題はありません。例えば、2回日本で口から飲んで、赴任地で不活化ワクチンの注射を受けるという方法でも問題はありません。3回目は日本で生ワクチンを飲んでから出国するということでもかまいません。アメリカではポリオの予防接種を3回受けたという証明がないと小学校に入れてもらえませんから気をつけてください。

 麻疹については、日本では1歳〜1歳6か月ごろの接種が一般的です。しかし、1歳未満で麻疹にかかると重症化し、肺炎になりやすいということもありますので、生後6か月過ぎから9か月あたりで打つことをお勧めします。1歳以前に麻疹の予防注射を打っても免疫がつかない子どもがいることもあって、いま日本でも議論になっていますが、麻疹の予防接種を2回するといいと思います。6か月から9か月くらいのときに1回目を打つ、2回目としてMMR(麻疹、おたふくかぜ、風疹)ワクチンというのを赴任先の現地で打つというのがお勧めのパターンだと思います。MMRは日本では10年くらい前には定期接種のなかに入っていたのですが、当時使っていたワクチンが起因しておたふくかぜ髄膜炎を起こす頻度が高かった時期があり、日本では接種をやめています。いま日本では打てない予防注射になっていますので、1回目を日本で受けて、2回目として現地でMMRを受けることをお勧めします。

 日本脳炎は、日本では行政的なサービスでは3歳以降ですが、医学的には生後6か月以降でしたらオーケーです。日本のワクチンのほうが副反応が少ないです。日本脳炎というのは、ブタを介して小型アカイエカという蚊に刺されることにより感染します。ですから、ブタの多い地域、とくに東南アジアに行かれる方は、日本脳炎の予防接種を受けてから行ってください。

 今度は大人に関してです。

 まずA型肝炎について触れます。昔はA型肝炎というのは珍しくなくて、相応の年齢より上の方には自然抗体ができていますからあまり気にしなくていいのですが、これは経口、つまり口を通して、食べ物から感染する感染症です。頻度としては一番高いです。ですから、大人の場合には接種することをお勧めします。子どもの場合にはあまりひどい肝炎の形にならないで、軽い風邪のような形で終わってしまうことが多いこともあって、いまのところ15歳未満の子どもにはA型肝炎のワクチンは打たないのが一般的です。一般の小児科に行って子どもに打ってくださいと頼んでも、断られることが多いと思います。海外渡航者の子どもをたくさん扱っている医療機関で打つしかありません。子どもさんにはあまり優先度はないですよということです。

 破傷風は、やはりけがをする可能性の高い人、例えば土木関係の方、あるいは接種後10年以上経っている方は、大人でも打ってください。子どもは一応、三種混合(破傷風、ジフテリア、百日咳)に入っており、小学校の後半で追加接種します。ハイティーンの子どもさんは、打ってから行ったほうがいいような場合もあります。

 狂犬病は日本では、40年以上前からかかった方がまったくいません。しかし、犬だけではなくキツネ、リス、コウモリなども狂犬病の毒素を持っています。森林の多いところ、あるいは欧米では公園にリスがたくさんいますし、キツネも日本よりもよく出会ったりしますので、そういうところへいらっしゃる場合は、打つことをお勧めします。小児にはあまりお勧めではありません。量が多いこともありますし、狂犬病の場合、その疑いのある犬や動物に噛まれた後すぐにワクチンを打つという救済方法もありますから。

 A型肝炎が経口、つまり食べ物から感染するのに対して、B型肝炎は血液を介して伝染します。とくに多いのは母子感染です。お母さんがB型肝炎のキャリアだと子どももかかってしまうので、日本では妊婦さんがB型肝炎の抗体を持っている場合には、子どもが生まれるとすぐ打つシステムになっています。アジアやアフリカの一部の地域では、キャリア率が高いですね。こうした地域で使用人を使うということになると、小さいお子さんと使用人との接触が濃密になるような場合もありますので、そういう地域に行かれる方はお子さんも含めてB型肝炎の予防接種をお勧めします。

 先ほども言いましたが、日本脳炎はブタを飼っている地域、おもに東南アジアに多く見られます。逆にイスラム圏ではブタを食べませんから少なくなります。私はインドネシアに赴任したことがありますが、ブタはまず見ません。そういう国の、とくに首都に行かれるような方の場合は、日本脳炎の接種はそれほど必要ないということになります。アジアでは、バングラディッシュなどでもブタを食べません。逆にベトナムやカンボジア、それから中国ではブタ肉料理が多いですから、そういうところでは注意が必要です。

 以上お話ししたものがお勧めの予防接種ですが、日本では受けられないものもいくつかあります。小児科としては、怖い病気で予防できるものなら予防したほうがいいと、個人的には思うものもあります。海外でしか接種できないもの、要するに日本では入手できないものの一番は、先ほどお話ししましたMMRです。生ワクチンで接種は1回、1歳以上ならオーケーです。

 次にヘモフィルスインフルエンザ菌のワクチンです。これはいま流行のインフルエンザとは違います。インフルエンザはウイルスによるものですが、ヘモフィルスインフルエンザは細菌です。肺炎などを起こしやすい。接種は3回です。

 腸チフスも、途上国に行きますと、不衛生な食べ物、水などによって発症頻度が高いのですが、ワクチンは日本では手に入りません。経口接種で、1日おきに4回飲みます。現地に行って、信頼のおける医療機関を探して受けるようにしてください。

 それから髄膜炎菌のワクチンがあります。これは流行性の脊髄膜炎といって、いわゆる脳炎、さらに髄膜炎、頭痛や発熱という症状を起こすのですが、それを予防するものです。この髄膜炎菌というのは、日本を含めてどこにでもある菌です。とくにサウジアラビア方面に行かれる場合、髄膜炎菌ワクチンを接種していないと入国させてくれないこともあります。赴任地で必要とされている場合には、着任後なるべく早く受けてください。証明書がないとダメだという場合には、日本に検疫所がいくつかありますから、そこで接種を受けてから行くようにしてください。

 コレラも経口感染で、ワクチンがあることはあるのですが、定着率、つまり抗体をつくる効果があまり高くありません。現時点では、ワクチンを接種するよりも日々の衛生、食べ物とか衛生環境による予防のほうを中心にしてください。
 
海外での予防接種

 次に、海外における予防接種です。

 これまでお話ししたように、日本でできるものはなるべくしていきましょうということですが、日本で受けられない予防注射もあります。また、期限が間に合わないで赴任してしまうと海外で受けることになります。ワクチンの性能、品質については問題ないのですが、やり方が違いますので、それに戸惑うこともあります。ですから、こんなの知らないと思わずに、海外における予防接種の特徴も覚えておいてください。
 まず、2種類以上のワクチンを同時に打つことがよくあることです。例えば、BCGを打ってポリオも打つという具合です。これについては驚かないでください。

 海外では筋肉注射の場合が多いですね。日本では、BGCでしたらスタンプです。それから皮下注射が多いです。ところが海外ですと、縦にまっすぐブスッという感じが多くて、びっくりしてしまうことがあります。接種のつき具合は、どちらも変わりません。注射する部位は、日本では上腕の右や左ということが多いが、生まれたての新生児ですと、そこの肉が十分ではありませんので、太腿に打つことがあります。これは海外ではけっこうポピュラーで、乳児では大腿四頭筋の外側、要するに真ん中より外側の筋肉に打つことがあります。ですから、そういう打ち方をされても心配ありません。

 注意しておいてほしいことは、予防接種による後遺症への救済はまずないということです。自分である程度リスクはかぶるということを考えておかなければなりません。日本では、システムがしっかりしていると言いました。だから日本で予防注射をしていったほうがいいかというと、日本での救済の対象は定期接種など一部分だけです。例えば、赴任地で必要とされているから髄膜炎菌ワクチンを打った、それで何か問題があったとしても、日本の救済法は適用されません。日本では、言い換えれば、どのワクチンが後遺症を引き起こしたのかということをはっきりさせるために、接種するワクチンは1回につき1種類にするいう感じなのです。

 予防注射に関してはこれくらいにしておきたいと思います。
 
感染症について

 続いて、いわゆる感染症についてです。まず一般的な注意ですね。

 当り前のことですが、水に関して、水道をひねったら安全な水が飲めるというのは日本の特徴で、外国へ行ったらそれはまずないと思ってください。今日私がみなさんに説明できる大部分はアジア、とくに私が赴任したことがあるインドネシアが中心になってしまうのですが、欧米でも同じです。シンガポールとかスイスでは蛇口をひねれば飲める水が出てきます。また、アメリカとかヨーロッパの国では、高級ホテルですと、これは飲めますなどと書いてあることもありますが、一般的に水道水ではない、ペットボトルや大きなガロンに入ったミネラルウォーターなどを飲料水とします。

 もう一つ注意しなければならないことは、日本の水はカルシウムやマグネシウムとかの鉱物が入っていないお水なんですが、このエビアンなどもそうですけど、欧米の水はそれらがいっぱい入ってる硬水だということです。これをグイグイ飲んで下痢をする人がけっこういます。結石を起こす方もその頻度が増えますので、注意が必要です。要するに日本人は、硬水に慣れていないということです。

 それではどうするかというと、煮沸すれば硬度、つまり鉱物の含有量が減りますので、まずそれをお勧めします。インドネシアでも、一般の方も決して水道水をそのまま飲んだりしません。見落としてしまうのが氷です。氷は飲料水でつくるのですが、氷を使うときに洗ったりする水がいけないわけです。レストランなどでジュースに氷を入れてもらうことがありますね。ちゃんとしたレストランでは、そのあたりも十分注意していますが、それで当たることもありますから、十分注意してください。

 食べ物では、生ものは避けましょう。日本人は刺身が食べたいということで、ちょっと怪しげなところで食べたりして当たってしまうこともあります。

 また、後でもふれますが、途上国でも冷蔵品を売るスーパーのクーリングシステムがしっかりしてきましたので、そうしたスーパーでも生ものが売られるようになってきました。しかし、逆にそういうところのほうが危ないということもあるのです。朝とりたてのお肉やお野菜を売っている市場などのほうが腐っているのが分かります。ところが、冷蔵だと、例えば魚の目はなんとなくきれいでも、すでに腸チフス菌とかA型肝炎ウイルスがくっついているのを買うことになるということもあるわけです。そうした点も気をつけなければいけないことです。
 体調に関しては、最初にも言いましたが、ストレスをためないことです。科学的に言っても、ストレスや寝不足は免疫力が落ちると言われています。逆に、みなさん聞いたことがあると思いますが、笑いで免疫力が上がるということも科学的に証明されています。長期に入院している方たちなどに、寄席とかコントを見せるということもよく行われていますね。無理をしない、ストレスをためないことが大切です。

 それから蚊の対策です。虫よけスプレー、蚊取り線香、蚊帳などは有効です。虫よけスプレーは、現地に慣れるまでの間は、日本から持っていかれたほうがいいのではないかと思います。これも後でご紹介しますが、ゴキブリ退治とかハエ対策で、途上国では日本で禁止されているDDTなどの含有量が日本の基準より高い商品が、普通にスーパーマーケットで並んでいますので、とりあえず日本のものを持っていって、その基準に合った物を現地で探して、次から現地調達するというやり方をお勧めします。

 日本でも同じですが、人から人に移る病気にもご注意ください。

 HIVに関しては、とくに日本は啓発不足だと思います。注意が足りません。途上国で注意していただくもののなかで、かなり上位に入ると思います。

 SARSに関しては、去年と今年でかなり情報も入るようになってきましたが、基本的にはマスク、手洗いということに尽きます。流行地では気をつけるようにしてください。

 エボラ出血熱はアフリカの一部の地域で発生している病気です。

 途上国では寄生虫も多く見られます。駆虫薬を飲むということも途上国では一般的です。1年に2回定期的に飲むのがお勧めですね。そのときは、使用人にも飲んでもらうといいでしょう。

 次に、蚊やノミからの感染症です。

 とくに熱帯、亜熱帯の地域に行く方に覚えておいてほしいのですが、デング熱を媒介する蚊は昼間に活動する蚊なんですね。それに都市部で活動します。ですから、都市のきれいなところだから問題ないとは言えないのです。マラリアを運ぶ蚊は地方に多くて、夜間に活動する蚊ですから、夜間の外出を避けるということで済みますが、デング熱のほうはくせ者です。症状としては突然の高熱、筋肉痛が出ます。インフルエンザと似ていますね。目の奥が痛いといった症状もあります。しかも、1回目よりも2回目にかかったときのほうが症状がひどくなって、血尿とか出血斑といった症状が起きやすくなります。

 日本脳炎は蚊によって感染します。ブタを刺した蚊が人間を刺すことで日本脳炎が引き起こされます。無症状がほとんどですが、発症すると麻痺が起きます。予防注射が必要です。

 黄熱は、アフリカの中央地帯によく見られ、入国に際して黄熱ワクチンを接種していることを義務づけている国が19か国あります。そこへ行かれる場合は予防注射を接種していってください。

 ペストは、ネズミが持っているペスト菌をノミが人間に媒介します。衛生状態が悪い地域では、ネズミ駆除とか、屋内外のドブといったところに注意しなければなりません。

 また、蚊がわかないようにするためには、空き缶に水が溜まっているだけでもボウフラが湧きますから、家の周囲の、例えば子どもさんが遊ぶ砂場に水が溜まったままの缶がおいてあるということにまで気をつけてください。

 感染症には潜伏期間があります。日本に帰ってきて10日とか2週間くらい経ってから熱が出る、頭がガンガン痛いといったこともあります。例えば、マラリアというのは日本へ来てから発症したりしますね。ところが日本では、マラリアを見たことがない医者が少なくありません。そこで、熱、下痢、発疹などの症状が出た場合は必ず、かかった医者にどこの国から帰ってきたかということを伝える、あるいは初めから熱帯の感染症のことを知っている医者のいる病院で受診することをお勧めします。開業医に診てもらっても、まず分からないと思います。中規模の病院のドクターも分からないでしょう。医者を責めないでください。見たことがない病気は判断がつきません。

 感染症についてはこのくらいにしておきます。
 
生活上の注意点

医療環境について

 現地での生活のセットアップにはそれなりに時間がかかると思いますが、医療機関へのかかり方もある程度つかんでおいてください。途上国であっても、首都には外国人に慣れた病院が必ずあります。どうしてかというと、私もJICAを通じて途上国へ日本の税金で支援するという形で行ったわけですが、途上国というのはそのように海外から支援を受けている歴史がけっこう長いのです。さらにキリスト教系の、貧しい人々を救おうというような支援も歴史がありますので、どの国へ行っても外国人が必ずいて、とくに首都には外国人に慣れた病院が必ずあります。そうした情報を現地で素早く入手してください。入手先としては現地の日本人社会、いわゆる日本人会などが一番です。

 次にお話しすることにもかかわりますが、医者にお任せというのはまず通用しませんし、日本語ができる医師が必ずいいとも限りません。うまく情報を取捨選択してください。これは日本でも同じです。ある人はA先生がいいと言うけれど、自分には合わないといったことがありますね。海外でも、いろんな情報を得て、みなさん自身が確認して、この人なら信頼がおけるという人を早く見つけるようにしてください。

 簡単なけがや病気なら自分の家で治療するというところも多いようです。私の経験ではありませんが、カナダでは、38度5分の熱はあるが元気にしている子どもをなぜ病院に連れてくるんだという非難がけっこうあるそうです。熱があっても元気があるのなら、どうして家で解熱剤を飲ませて様子を見ないのかというように考える国があるということです。難しいですね。海外だから余計に不安になるのですが、とりあえず見極めるだけの情報や知識を、日本にいる以上に得るようにしなければなりません。

 受診するときには、症状や経過についての英語のメモをあらかじめ用意しておいてください。いつから熱が出たか、何度まで出たか、食欲はどうか、下痢は1日何回だったか、家族のなかで同じような症状が誰と誰にあるかといったことです。フルセンテンスでなくてもいい、単語でいいのです。

 医療費について、途上国は物価が安いから日本より安いだろうというのは間違いです。日本では一般医でも誰でもスペシャリストのような感じですが、日本以外の国では一般医、ホームドクターのような人が診て、このケースは自分の手に負えないので整形外科のスペシャリストに診てもらおう、あるいは血液学のスペシャリストに診てもらおうというシステムになっているのです。入院して、スペシャリストがちょっと顔を出して挨拶しただけでも1,000ドルといった費用がかかることもあります。医師によって金額が異なります。あの病院で私はこれだけ支払ったのに、別の方は私の半分だったということもあることを覚えておいてください。その金額を日本の保険でどれだけカバーできるかというと、日本は日本の基準で保険点数より算出しますので、持ち出しがあることを覚悟してください。そういう意味で先ほど、海外旅行者傷害保険や生命保険などの活用をお勧めしたわけです。

 とにかく、日本式医療システムを求めるのは無意味だということをまず肝に銘じてください。例えば日本ですと、受診券を出して、どこどこの科の外来で待っているとカルテがきて、診察してもらって、すぐ隣りで注射も打って、処方を出してもらい、受付で薬をもらって、お金を払うといった形が一般的ですね。これに対して、途上国(アメリカなどもそうですが)では、この検査を2階フロアで受けて、そこで支払いを済ませてきてくださいとか、あなたは点滴が必要です。あそこの薬局へ行って、この抗生剤と注射用のチューブ、注射器、ブドウ糖を買って持ってきてください。ここで私があなたに点滴をしますというシステムがあり、けっこう煩雑です。それが当たり前なのです。こういうところも確認しておいてください。

 
生活環境について

 環境の違いによる病気もあります。とくに熱帯、亜熱帯の国では日焼けです。インドネシアには日本からのツーリストがたくさん来ています。タンクトップで、日焼けしたいというように見えるのですが、私に言わせると、「あー、かわいそう。明日には真っ赤だよね」ということになります。日差しの強さが全然違いますから、帽子、長袖の着用をお勧めします。

 また、私も経験がありますが、宗教の関係で女性が肌を人前で出すことを好まないところがあります。ツーリストでしたら、一時的にそこにいるだけですからいいのですが、現地で生活をするとなると、ある程度そこの文化を尊重しなければなりません。私はノースリーブはまず着ませんでした。暑かったですが、必ず半袖か長袖でした。日焼け止めは塗ってください。熱射病、日射病もありますので、とくにお子さんには水分をこまめに補給してください。水筒はどこへ行くときにも持っていってください。メキシコシティやボリビアのラパスなど、2,000m、3,000mを超える首都もあります。そこでは高山病に注意しなければなりませんが、水分補給は高山病に対してもけっこう役に立ちます。

妊娠・出産について

 さて、今日のテーマは海外母子保健情報ですので、海外での妊娠、出産ということにも少し触れたいと思います。

 先ほど母子衛生研究会の方がおっしゃていましたが、いま59万人あるいは60万人の日本人が海外で生活しています。そのうちのたぶん1万人くらい、あるいはそれ以上の方が海外で出産しています。特徴的なのは、いわゆる途上国へ行かれる方は企業からの派遣の方が多く、そのご家族はいわゆる子育ての世代の方が多いということです。欧米になると、当然企業からの派遣もありますが、留学の比率が高くなるという特徴があります。ですから、アジア、中近東などの途上国へ行かれる方で出産を考えていらっしゃる方もおいでになると思います。海外では医療システムが違いますので、十分にお気をつけください。なお、日本のような健診制度はありません。

 分娩や周産期管理の方法は日本と異なります。例えば、必ずしも産科と小児科がうまく連携しているとは限りません。逆に、シンガポールや欧米諸国中には、日本以上に救急搬送システムがしっかりしているところもあります。そういう意味では、一長一短がありますね。インドネシアでのケースですが、ある日本人のお母さんが「ちゃんとした施設で健診を受けてるんだけど、尿検査を全然しないんですよ」とおっしゃっていました。また、体重増加についてはおおらかですね。いま日本では体重増加について神経質になり過ぎているという気がします。一般的には、10kg増えたって12kg増えたって15kg増えたっていいんじゃないという国が多いです。日本人のお母さんはあまり体重が増えません。みなさん自分で体重コントロールをしようとするようです。そうすると逆に、お腹が小さいんじゃない、体重が増えていないんじゃない、赤ちゃんが小さいんじゃないと思われることもあ|