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氏田 由可氏講演より
労働福祉事業団海外勤務健康管理センター 研修交流部小児科医

 

海外で病気になったとき

病気になったときの問題点

  • 安心して受診できる医療機関がない
  • 日本語が通じない=コミュニケーションがうまくとれない
  • 受診システムが日本と異なる
  • 診療費が高額

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 特に、赴任前に心配して質問されることが多いのは、安心して受診できる医療機関についてです。私の目から見て、ここなら日本人がかかっても大丈夫という医療機関は思ったより多く、東南アジアや南アジアの国でも、都市部であれば1か所はありますので、できるだけ情報を集めて安心していただくようにしたいと思っています。ただ、日本語はやはり通じませんし、日本語の通じる病院が医療レベルも高いとは限りません。タイや中国には日本への留学経験があり、日本語を流暢に話す医師もいますが、日本語ができることと、優れた医師であることとはイコールではないことをまず、頭においていただきたいと思います。日本人は英語で話したり、聞いたりは不得意ですが、読み書きはそこそこできますから、コミュニケーションがとれないときには書いてみたり、書いたものを持っていったり、あるいは医師や看護婦にも書いてもらいましょう。身振りを交えて行えばなんとか通じるものです。

 次に大きな問題は、受診システムが日本とは大きく異なることです。海外で病院とトラブルがあったというケースのほとんどは、受診システムに関する誤解や理解不足から起きています。
 具体的には、海外の病院はオープンシステムをとっており、病院はただの箱に過ぎず、医師がその空間を間借りして週に1回とか2回とかクリニックを開いている方式ですから、日本の病院システムとは全く違います。医療費にしても、日本では保険点数が決まっているため、どこで注射を受けても料金は同じですが、海外ではそのような制度はありません。病院で料金を決めている場合もありますが、基本的には医師が自由に設定できるので、医師によって受診費用が変わってくることが多く、また割高の日本人料金が設定されていることも稀ではありません。

 そうでなくても、日本には保険制度があり2〜3割負担で済むので、海外で全額負担になると、その高額に驚いてしまうわけです。日本の医療システムが恵まれ過ぎており、海外では医療費を100%支払うのが当然なのですが、その辺の理解不足がトラブルの元になっているようです。

海外で子どもがかかる病気

 私ども労働福祉事業団では、途上国約100都市に医療チームを派遣して、海外巡回健康相談を行っています。

海外の小児に多い訴え
海外巡回健康相談・問診票から

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 医療行為はしませんが、年間5,500〜6,000人ほどが利用しており、そのうち半数くらいが15歳以下の子どもです。

 左下に示した表は平成11年度の健康相談での訴えの集計です。最も多かったのが咳・痰が多いという上気道症状で12%、2番目は飛ばして、3番目は虫刺されや湿疹など皮膚の異常で6%、次いで、やはり上気道症状であるのどの痛みが5%、発熱や視力低下も5%、下痢・腹痛は6〜7番目で4%となっています。ほかに頭痛とか疲れやすいという訴えも2.4〜2.5%と比較的多いようです。想像していたほど消化器症状の訴えはなく、上気道症状の方が多くなっています。特に途上国は大気汚染の影響もあると思いますが、いわゆるかぜ症状で悩んでいる方が多いという結果が出ています。

帰国後、発症する感染症について

帰国してから発症する感染症の問題

  • 正しい診断ができない
  • 適切な治療を行うことができない

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 マラリアやデング熱は日本の医師でも知らない人が多く、たとえマラリアと診断できたとしても、その治療薬が病院にないということも起こりがちですし、さらに稀な寄生虫疾患やダニ脳炎になると、診断がつかず適切な治療を施せないで、手遅れになることも少なくないなど輸入感染症は大きな問題になっています。

自分の健康は自分で守る

 まとめとして、企業にしても医療従事者にしても、私たち送り出す側が海外赴任者とその家族に、どのようなことを提言していけばよいかについて触れます。

海外赴任者への提言

  • 自分の健康は自分で守る、という自覚をもってもらう
  • 海外の医療システムを理解し、日本式の医療を求めることの無意味さを知ってもらう
  • 情報収集の手段を確保

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 第1の原則は、自分の健康は自分で守るという自覚をもっていただくことです。日本にいると、乳幼児健診や予防接種のお知らせがきて、それに乗っていけば一通り済んでしまいますし、企業の健康診断などを受ける機会にも恵まれますので、自己責任の意識は希薄になります。
 海外では、自分の健康は自分で守るという自覚をもっていないと、何もやってもらえません。このことを第1番に教育してもらいたいと思います。

 次に、海外の医療システムを理解し、日本式医療を求めることの無意味さを知ってもらうことです。むしろ、日本の方式が特殊であって、乳幼児健診も予防接種も海外の方を基準に考え、郷に入れば郷に従えだということを理解してもらってください。

 第3に、情報収集の手段を確保すること。幸いに現在はインターネットも普及しているので、以前に比べ情報は収集しやすくなっています。私どものセンターでもさまざまな国・地域の健康情報を提供していますし、ほかにJICAや検疫所などもホームページで情報を発信しています。また、母子衛生研究会もホームページや関連小冊子を出しており、「アクセスガイド」には、こうした情報機関のリストが掲載されていますので、利用してください。

課題

  • 海外勤務者(帯同者も含めて)への十分な派遣前教育
  • 海外医療事情の提供
  • 国内関係機関の連携による効率の良いサポート体制づくり
  • 必要な制度改正への働きかけ
  • 海外医療機関との連携と協力

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 今後の課題としては、赴任者へはその奥さまも含めた十分な派遣前教育をする必要があるでしょう。また、すべての人がインターネットを利用できるわけではありませんから、そのような方も視野に入れてできるだけたくさんの情報を提供していきたいと思います。

 さらに、国内関係機関の連携による効率のよいサポート体制づくりも大切です。母子衛生研究会はかつての厚生省、私どもはかつての労働省、JICAは外務省、日本人学校は文部省の関係機関ですが、なかなか横の連携がとれていなくて、効率的なサポート体制が整っていません。同じような地域へたくさんの企業が大勢派遣しているのに、企業ごとに対応しているので効率が悪く、その辺の連携を図っていきたいと考えています。

 加えて、予防投薬ができないとか、日本の法律上や制度上の問題もあるので、そうした制度改正も必要になってくるでしょうし、また少なくとも日本人赴任者の多い都市の海外医療機関とは、何らかの連携関係をつくったらよいのではないかと考えています。