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U多くの人が日本で受ける予防接種
(定期接種と任意接種)

 日本で受ける予防接種は、法律のもとにすべての人に接種を勧めている定期接種(規定の年齢の範囲であれば費用は自治体が負担)と、法律では接種が規定されていませんが必要に応じて接種が可能な任意接種(費用は個人負担−定期接種のワクチンでも規定の年齢をはずれると任意接種の扱いとなる)とに分けられます。定期接種ワクチンの種類は外国と共通するものが多く、海外に出かける場合、短期であっても長期であっても、まず国内での定期接種ワクチンを優先的に行っていくことが最大の原則になります。

定期接種のワクチンchuusha2.jpg (16732 バイト)

BCG:結核の予防接種。乳幼児の結核予防には高い有効性が認められている、EPIワクチン(T基本的な知識と心構え参照)の一つです。結核予防の考え方の相違からBCGを行わない欧米の国もありますが、ことに乳幼児については渡航先にかかわらず出国までに接種を済ませておくことを勧めます。成人は通常必要としません。日本ではスタンプ方式による接種が行われますが、海外ではほとんどが注射方式です。BCGを行わない米国やヨーロッパの一部の国などでは、入学時の健康診断などでツベルクリン反応(結核に対する免疫の有無をみる)が陽性の子どもにはすべて結核の予防投薬を行うので、検査を受ける際にはBCG接種の有無についてあらかじめ正しく伝える必要があります。

ポリオ:ポリオ(急性灰白髄炎−急性小児麻痺)の予防接種。地球上からのポリオ絶滅を目指して、各国とも投与の徹底を行っているEPIワクチンの一つです。日本は2回投与方式ですが、海外では3回以上の投与が行われます。したがって長期滞在の場合には国内または渡航先で合計3回以上の接種が必要となります。回数が多くなることによる副作用発生の心配はありません。多くの国は経口(飲む)生ワクチンを採用していますが、一部欧米諸国では注射型の不活化型ワクチンを採用しています。生ワクチンと不活化型ワクチンの混合スタイルになっても差し支えありません。成人でポリオワクチンの接種歴が不明な場合には、少なくとも1回以上の接種をしておくことを勧めます。
また、昭和50〜52年生まれの人は、抗体保有率が他の年齢層に比べて低いことが厚生省の調査で分かっていますので、インド、パキスタン、ザイールなどポリオ常在国に渡航される場合は、追加接種をお勧めします(ただし、妊娠している女性は除きます)。

DPT三種混合:ジフテリア(D)・百日咳(P)・破傷風(T)の混合ワクチン。いずれもワクチン接種が行われていなければ、どこの国にいても発病の危険性が高くなります。各国とも EPIワクチンの一つとしてワクチンの徹底をはかっています。基礎的な免疫を保つためには、間隔が規定から多少ずれても合計4回(T期3回プラス追加1回)のDPT を受けておくことを勧めます。日本で回数が不足した分の追加を海外で受けても、差し支えありません(Q&A11参照)。日本では改良型DPT(acellular typeといいます)がすでに採用されていますが、海外ではこの改良型をnew typeと表現することがあります。日本ではDTの追加接種(U期)は11-12歳に行われますが、海外での追加時期はまちまちです。長期滞在の場合には現地の方式に従って追加接種を受けて下さい。小児期にDPT未接種あるいはDTを含めて不完全な接種のままになっている成人は、ジフテリアと破傷風の接種が必要な場合があります(V旅行医学としての予防接種参照)。

麻疹:麻疹(はしか)の予防接種。麻疹は子どもにとってはもちろん、免疫のない大人でも感染発病すれば、高熱が1週間前後も続くだけではなく肺炎・脳炎などの合併症の危険が高く、現在の医療をもっても死に至ることがある重症感染症です。各国ともEPIワクチンの一つとしてワクチンの徹底をはかっていますが、日本の子どもたちの麻疹ワクチン接種率は低く、問題となっています。1歳以上での出国であれば、出発前のなるべく早い時に優先的に接種を済ませます。1歳以下で麻疹ワクチン接種を行う国もあるので、この場合には任意接種として早期に行うことを考えておく必要があります。日本では麻疹ワクチンは単独接種が原則ですが、麻疹・風疹・おたふくかぜの混合ワクチン(MMR)を採用する国が増えているので(W日本で受けられない予防接種参照)、渡航後現地で早めにMMRの接種を受けることも一方法です。また麻疹の予防を徹底するため、麻疹あるいはMMRの2回接種方式を取り入れる国が欧米を中心に増えているので、年長者の渡航の場合は麻疹の追加接種を考えなくてはいけない場合があります。追加することにより副作用の発生が高くなる危険性はありません。成人で麻疹に感染したこともワクチン接種もしたこともない人には、海外渡航の有無にかかわらず麻疹ワクチンの接種を勧めます。ただし、妊娠している女性は控えてください。


風疹:風疹および先天性風疹症候群(流産・死産及び胎児の奇形発生など)の予防が目的。麻疹・風疹・おたふくかぜの混合ワクチン(MMR)として小児への風疹ワクチン接種を勧めている国が増加していますが、経済的事情から導入できない国も多く、EPIワクチンには含まれていません。MMRが採用されていない国に渡航するのであれば、麻疹ワクチンに次いで風疹ワクチンの接種をしておくことを勧めます。MMRが採用されている国の場合は麻疹と同様、渡航後現地で早めにMMRの接種を受けることも一方法です。思春期以降のことに女性で風疹に感染したこともワクチン接種もしたこともない人には、海外渡航の有無にかかわらず風疹ワクチンの接種を勧めます。
ただし、妊娠の可能性がある場合には、胎児への感染を防止するため、妊娠していないことを確かめた上で接種し、ワクチン接種後最低2か月間の避妊が必要です。

日本脳炎:日本では3歳以上から定期接種として開始されるのが標準的ですが、生後6か月からでも定期接種として開始が可能です。東南アジアの流行地へ渡航の場合には、3歳未満であってもEPIワクチンに次いで接種をしておくことを勧めます。日本脳炎ワクチンを広く導入している国は、日本・韓国・中国・タイなど一部ですので、追加接種(9歳以上13歳未満及び14歳以上16歳未満)についても日本にいるうちになるべく済ませておくようにします。成人も、これまでの接種が不完全かあるいは受けていない場合には基礎免疫から、接種が完全であっても最終接種から5-10年以上を経ていたら追加接種をしておいた方が無難です(V旅行医学としての予防接種参照)。

任意接種のワクチン

おたふくかぜ:おたふくかぜ(流行性耳下腺炎−ムンプス)の予防接種。麻疹・風疹・おたふくかぜの混合ワクチン(MMR)として小児へのおたふくかぜワクチンの接種を勧めている国が増加していますが、経済的事情から導入できない国も多く、EPIワクチンには含まれていません。MMRが採用されていない国に渡航するのであれば、麻疹ワクチン・風疹ワクチンに次いで接種をしておくと良いと思いますが、接種の優先順位としてはEPIワクチンなどに比べると下がります。MMRが採用されている国へ行く場合には、麻疹・風疹などと同様に渡航後現地でMMRとして接種を受けておくことも一方法です。
水痘:水痘(みずぼうそう)の予防接種。重症化することが少ないので予防接種の優先順位としては低い方になります。水痘ワクチンを採用する国は増えつつありますがまだ限られているので、水痘をあらかじめ防ぐためには日本で接種しておくメリットがあります。
インフルエンザ: A型およびB型インフルエンザの予防接種。日本では接種を受ける人が少なくなってしまったワクチンですが、海外では喘息・糖尿病あるいは心臓・腎臓などに慢性の病気を持っている人及び高齢者が接種対象者となっています。海外渡航者に積極的に勧めるワクチンとはなっていませんが、現地でのインフルエンザの流行時期に海外旅行をする高齢者などには接種が勧められます。
B型肝炎:B型肝炎の予防接種。日本では、 B型肝炎ウイルスの持ち主(キャリア)の母親より出生した新生児に接種されますが、海外では出生した新生児すべてが接種対象となっている国が大多数です。経済的事情から導入できない国も多いのですが、第7番目のEPIワクチンとしてとらえられています。成人も小児も接種を受けるメリットはありますが、新生児を除いてはその優先順位は低くなります(V旅行医学としての予防接種参照)。
肺炎球菌ワクチン: 脾臓が摘出された小児、慢性呼吸器疾患の小児、HIV感染小児、一部の高齢者など限られた人を対象に接種が行われるので、「海外に行く」ことを理由にこのワクチンを受ける必要は現在ありません。

 

V海外渡航前の予防接種

 

 保険を選ぶ時、どんなことを考慮するでしょうか。費用や補償内容など様々な条件を考えますが、保険には入らないという方もいます。海外渡航の際の予防接種も保険と似ていて、こうしなければいけないという正解はありません。黄熱以外の多くの予防接種は強制されるものではなく、年齢、滞在地、期間、行動様式、費用など様々な条件を考慮し、自分や家族の健康を守るために自分の判断で決定します。

黄熱:蚊によって伝染される熱病で、死に至ることも多く、南米やアフリカの赤道近くを中心に常在します。これらの国では入国者に対し国際保健規則により予防接種が義務づけられています。また義務のない国でも予防接種が強く勧められる流行地があります。アフリカや南米に渡航の際は、旅行社や検疫所に早めに必要性を確認してください。黄熱の予防接種は生ワクチンで非常に有効性が高く、接種後10年間有効です。接種時に発行された国際予防接種証明書を旅行時には携帯します。証明書が有効となるのは接種後10日目からです。免疫不全、たまごやゼラチンのアレルギーなどで接種できない場合は、忌避証明書が必要です。なお0歳児や妊婦の場合は検疫所などに別にご相談ください。

破傷風 :破傷風菌は土壌に広く生息し日本でも毎年死者が出ており、旅行の有無を問わず予防接種が勧められます。とくに小さなお子さんのいる家庭など、土や動物に接することも多く、親も必須と考えましょう。基礎接種が済んでいる場合は、10年に1回の追加接種で免疫が保たれます。1968年頃より集団接種が開始されており、35歳前後より若い世代は通常基礎接種を終えています。12歳時に破傷風・ジフテリアの第U期が実施されており、20歳代前半までの方は十分な免疫を持っています。外傷時に追加接種されている場合も多くあります。妊婦に対し、新生児破傷風予防のために接種している国もあります。

日本脳炎:蚊によって感染するウィルスによる病気で、東・南アジアに広く分布します。小児期に基礎接種を受けていることが多く、追加接種は1回で4年程度効果があるといわれています。現在は、中学生までは定期接種が実施されていますので、大学生や成人が中長期にアジアに滞在する際には、追加接種が必要となります。死に至ったり重い後遺症のおきやすい病気ですので、流行地に滞在する場合ぜひ接種を受けておきましょう。

A型肝炎:水や食品を通じ経口的に感染します。不衛生な環境では非常に多い病気で、全身倦怠感や黄疸のため一月以上の休養も余儀なくされることもあります。死亡することはまれで、慢性化することも通常ありません。日本人では40歳以下では免疫がない人がほとんどです。免疫の有無は採血でわかります。以前はガンマグロブリンを予防に用いていましたが、すぐれた不活化ワクチンが開発されました。16歳以上のみが対象ですが開発途上国へ滞在する際には2〜4週間隔で2回接種します。より長期的な予防のために約半年後に一度追加接種が必要です。親が長期間病気になると子どもの生活に影響が出る点からも、大人に積極的に勧めたいワクチンです。なお15歳以下への接種も諸外国では認められており日本でも申請中です。

B型肝炎:以前は血液や注射針などを通じた感染が問題でしたが、現在はB型肝炎に感染している母親からの新生児期を中心とした感染と、思春期以降の性行為を通じた感染の二つが主な問題となります。3歳以下の乳幼児が感染すると慢性化することが多いため、生直後から予防接種をする国も増えてきました。成人の感染では通常慢性化はありませんが、黄疸などが重症化し死に至る劇症肝炎も1%程度にみられます。不活化ワクチンの接種には通常3回、約半年を要します。免疫の獲得には個人差があり、採血検査により確認します。途上国への長期滞在者にはしばしば接種が勧められていますが、家族での旅行・滞在では余裕があれば実施しておきたい程度と考えられます。

狂犬病:日本・オセアニアなど一部を除き全世界に存在する病気です。狂犬病の動物との接触、主に咬み傷より感染し、発病した場合は全例死亡します。野犬だけでなくキツネやアライグマ、コウモリなどに近寄らないようにしましょう。開発途上国には野良犬も多く、長期滞在する場合は予防接種が勧められます。しかし動物に咬まれた直後からの接種・治療も有効であることから、医療機関が整備された大都市に居住する場合は優先度は低くなります。途上国には重篤な副作用もある安価な旧式ワクチンも出回っており、接種・治療は信頼のおける場所で受けましょう。

コレラ:代表的な下痢性疾患のコレラですが、現行の予防接種は必ずしも有効でなく、健康な方には接種を勧めていません。飲料水や食事の注意による予防や、万一かかった場合の適切な治療が予防接種に勝ります。なお経口の新型ワクチンが開発されており今後普及する可能性があります。

ペスト:ベトナムや中国など常在地もあり、米国中西部でも毎年患者が出ていますが、それらの土地への長期滞在でも副作用などの観点から接種は勧められません。大流行時に、やむを得ない理由で流行地を訪れる場合は検疫所などにご相談ください。

 

W日本で受けられない予防接種

 マラリア、デング熱、エイズ、……世界で多くの人が苦しんでいる病気には、予防接種がまだ開発中で受けたくても受けられないものがたくさんあります。ところが、外国では手に入れることができても日本にはない薬があるのと同じように、予防接種用のワクチンにも他の国では受けられるのに日本では使用されていないものがあります。ここでは、その代表的ないくつかを紹介しましょう。

MMR(はしか・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン):日本では使用が中止されていますが、欧米を中心に小児の基本接種として世界的に広く安全に使われています。海外のものは日本で使用されていたものとは元になるウィルスの株が異なります。最近では、複数回接種する国も増えてきました。未感染の場合成人にも接種されます。

ヘモフィルスインフルエンザb菌(Hib):乳幼児で肺炎や髄膜炎などの重症疾患を引き起こすヘモフィルスインフルエンザ菌に対するワクチンで、欧米では小児基本接種に取り入れられ生後2か月程から開始されます。しばしばDPTやポリオと同時接種されています。流行性感冒をおこすインフルエンザウィルスに対するワクチンとはまったく別のものです。

腸チフス:腸チフス(Typhoid Fever)はチフス菌の経口感染により発病し高熱などを呈する疾患で、重症化すると腸出血などを起こすこともあります。早期診断と適切な抗生物質の使用により普通は完全に治すことができますが、衛生状態の悪い開発途上国では重要な疾患です。ワクチンには注射と経口カプセルがあります。開発途上国、ことに地方へ滞在する場合は、成人・小児とも接種が勧められます。都市部でも衛生状態により考慮されます。海外では比較的容易に接種することができます。

髄膜炎菌性髄膜炎:世界中に存在する疾患ですが、アフリカの髄膜炎ベルトと称される地域でしばしば大流行が発生します。インド・ネパールなどでも時に流行があります。予防接種の必要性に関しては現地の信頼できる医療機関に相談するとともに流行情報に注意しましょう。英米やニュージーランドなどでも局地的な発生がみられることがありますが、一般に先進国での発生では予防接種を実施することはありません。

ダニ脳炎:北欧から極東にかけて初夏を中心に、樹木に生息するマダニにかまれ感染するウィルス性脳炎です。オーストリアや極東ロシアでは予防接種が勧められています。複数回の基本接種が必要ですので短期滞在者向けではありません。森林に入る時にはダニ防止の一般的注意を怠らないようにしましょう。

ロタウィルス:乳幼児の下痢症の主因であるロタウィルスに対するワクチンで1998年8月に米国で認可されました。