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T基本的な知識と心構え

shot.gif (2560 バイト) 「海外に行くのですが、どの予防接種を受ければいいのですか?」という質問に対する一般的な正解はありません。行き先の国、期間、年齢、健康状態などにより必要な予防接種が違うからです。行き先の国や地域での感染症の流行状況や予防接種方法をよく理解したうえで、一人ひとりが決める必要があります。

 日本のように、「保健所からの通知を待っていて順序よく受けていればいい」とおまかせの姿勢では海外の予防接種は乗り切れません。ご自身やお子さんの健康状態や年齢などを考慮し、この小冊子や巻末の情報源などを利用して予防接種に関する理解を深め、ベストの選択をしてほしいと思います。

ワクチンの種類
-生ワクチンと不活化ワクチン
-

 予防接種に用いられる薬液を、ワクチンという。ワクチンには、病原性を減じた病原体そのものを用いる生ワクチン(live vaccine)、死滅した病原体を用いる不活化ワクチン(inactivated vaccine/killed vaccine)、毒素の毒性を失わせて免疫原性のみを残したトキソイド(toxoid)などがある。生ワクチンは液性及び細胞性免疫が誘導され長期にわたり免疫が持続されやすいなどの利点があるが、一方弱毒の程度により本来の疾患の臨床反応が出現したり、強毒株に突然復帰する可能性がある。不活化ワクチンは、接種した抗原には感染性も増殖性もないので疾患本来の臨床反応が現れることがないが、免疫の持続が短いため免疫効果を維持するために複数回あるいは定期的に追加して接種を行わなければならない。

 ワクチンには抗原そのもののほかに、製造過程上混入する培養液、培養細胞成分、抗生剤などのほかに、安定剤・防腐剤などの添加物(ゼラチン・ヒト血清アルブミン・チメロサール・ホルマリンなど)、免疫原性を高めるためにアジュバントとして添加されるアルミニウム化合物などが含まれており、局所の硬結や腫脹、まれに生ずるアレルギー反応の原因になったりすることがある。なお最近のワクチンからは、安定剤としてのゼラチンは除去もしくは改良が行われつつある。不測のアレルギー反応の出現を極力避けるためには、丁寧な問診、病歴の聴取が必要である。

海外旅行者と予防接種

 予防接種の多くは、国ごとの方針で決定され、実施される。その国がその国における感染症の流行状況から、自国民(あるいは自国に在住している人)の健康のため、その国の社会的・経済的・医学的事情などを考えあわせて決めるものであり、国によって予防接種の対象となる疾患や接種方法、タイミングなどに当然違いが出てくる。日本で行われている方式が医学的に絶対的に正しいというわけではなく、一方国で行われているものが誤っているというわけでもない。もちろん他国に比し日本の方法が誤っているというわけでもない。

 しかしある程度は各国に共通の種類と方式を持つものがある。それはWHOが中心となって世界的規模勧めている小児に対するEPIワクチン(Expanded Program on Immunization)である。EPIワクチンの種類は、ポリオ・BCG(結核)・DPT三種混合(ジフテリア・破傷風・百日咳)・麻疹の6種類である。すべての新生児を接種対象とするB型肝炎ワクチンをEPIワクチンとみなして7種類とすることもある。

 小児を伴って海外へ行く場合には、原則としてこれら6種類のワクチンをあらかじめ接種しておくか、現地で接種を受けるようにすることが必要となる。わが国で定期接種として行われているワクチンには、EPIワクチンがすべて含まれているが、スケジュールなどには若干の相違がある。表1にはEPIワクチンの代表的な接種スケジュールを示した。大人を含む年長者であっても、旅行者がこれらの基本的なワクチンを接種していない場合には、極力接種を済ませておいた方がよい。

 EPIワクチンに次いで、その土地で流行の可能性のある疾患、感染の可能性のある疾患について予防接種の種類が旅行者に対して選択されることになる。これらの具体例については後に述べる。  

■表1  EPI(Expanded Programme on Immunization)
ワクチンの種類と標準的なスケジュール

 

出生時

6週

10週

14週

9ヶ月(または1歳)

BCG

@

 

 

 

 

ポリオ

(@)

@またはA

AまたはB

BまたはC

 

DPT

 

@

A

B

 

麻疹 

 

 

 

 

@

HB

@

A

 

B

 

丸数字は接種回数を示す。

 

海外渡航者への予防接種の原則


表2 海外渡航者への予防接種の原則

1

時間的余裕を持って相談してもらうようにする

2

渡航寸前にはワクチン接種は行わない   ○生ワクチン:2〜3週間以内
○不活化ワクチン:4日以内

3

多種同時接種方式を組み込むこともある

4

EPIワクチン(BCG・DPT・麻疹・ポリオ)を最優先とする
アジア方面では日本脳炎も優先的に行う

5

現地で必要とされるワクチンは必要である

6

長期滞在であれば、渡航後は現地の接種スタイルに合わせる

7

一時帰国の可能性があるなら、そのときに日本で追加を行うことがある


 余裕のある予防接種計画:海外渡航ことにそれが海外への赴任に伴ってのことであったり、留学であったりする場合、限られた時間内に準備やら手続きやら多くの事をしなくてはならないため、ついぎりぎりになってからの受診になりがちであるが、ある程度のものを計画的に行うためには時間的余裕が必要で、少なくとも2〜3か月、できたら半年ほどの余裕が欲しい。

 旅行寸前のワクチン接種は避ける:旅行寸前のワクチン接種は、万が一の副反応あるいはある程度予測ができる反応(例えば麻疹接種後10日目の発熱・発疹など)などが旅行中や滞在地に到着したばかりの不安定な状態にあっては好ましくないので、できるだけ避けるようにしたい。そのためには旅行寸前のワクチン接種(生ワクチンであれば旅行前2〜3週間以内、不活化ワクチンでは旅行前3〜4日以内)は行わないようにする。

 接種間隔(表3)と多種同時接種方式(表4):わが国ではDPT 以外は単独接種が原則であり、生ワクチン接種後次のワクチンまでは4週間以上の間隔、不活化ワクチン接種後次のワクチンまでは1週間以上の間隔が定められている(表3)。これは生ワクチン同士による干渉作用や、副反応が生じたときの原因追求をより分かりやすくするなどが主な理由である。海外ではDPT/ポリオさらにこれに B型肝炎(HB)/ヘモフィルスインフルエンザb菌(Hib) 、あるいは MMRなどの組み合わせによる同時接種が日常的に行われている(表4)。これは接種回数そのものを減らすことと、受診回数を減らすことによりワクチン接種を徹底しようとする意図が含まれているもので、より多種の混合ワクチンにするための開発が進められている。

 旅行前の時間に余裕のない場合などは、黄熱とコレラワクチンの組み合わせを除き、多くのワクチンは多種同時(同日)接種方式を採用することが可能である。この場合は、わが国の予防接種要領にも認められている方式であること、医学的には通 常問題のないこと(副反応発生率が高くなったり、ワクチン効果が減弱することはない)などを本人または保護者に説明し、了解を得る必要がある。なお同時接種であっても、DPTなどのように製品として混合ワクチンとなっている場合を除き、それぞれのワクチンをそれぞれ異なった部位 に接種する。また同時(日)に接種することは可能であるが、日をおいて接種する場合には前述の間隔をそれぞれ開ける必要がある(表3)。

■表3 予防接種の間隔

  

生ワクチン

ポリオ・麻疹・BCG・水痘・おたふくかぜ・黄熱など
4週間以上
次のワクチン

不活性ワクチン

DPT・DT・T・日本脳炎・HB・HA・インフルエンザ・狂犬病・Hibなど
1週間以上
次のワクチン

*混合ワクチンを使用する場合を除き、二種類以上の予防接種を同時に同一対象者に対して行う同時接種は、医師が必要と認めた場合に限り行うことができる。(予防接種実施要領より)


■表4 日本と海外接種方法の違い

 

日  本

海  外

 BCG  管針(スタンプ)法
 ツ反を行う
 注射法(臀部・大腿部・上腕部など)
 ツ反なし(BCG接種をしない先進国も多い)
 ポリオ  経口生ワクチン  一部不活化ワクチン注射法 または経口生/不活化混合方式
 同時接種  DPT以外は単独  DPT/ポリオ +HB +Hib
 MMR


接種ワクチンの優先順位:現地であらかじめ接種を要求されているワクチン、例えば黄熱のように現地の状況により採用が決定されたものについては、原則として接種を受けなくてはならない(受けざるを得ない)。小児に対しては、原則として前述の6種類のEPIワクチンの接種を最優先とする。大人を含む年長者であっても、旅行者がこれらの基本的なワクチンを接種していない場合には、極力接種を済ませておいた方がよい。
 次に、その土地で流行の可能性のある疾患、感染の可能性のある疾患について予防接種の種類が旅行者に対して選択される。その地域の状況のみならず、旅行者自身の現地での生活様式、滞在期間などによっても対象となるワクチンの種類あるいは優先順位が異なってくることは言うまでもない。
 1〜2週間ほどの観光旅行程度の海外旅行であるならば、慌てて幾つもの予防接種を行うことは通常ないが、少なくとも海外に小児を連れて行くときは、通常行っておくべきワクチン(予防接種法による定期接種)くらいはきちんと接種しておくことが必要であり、旅行社などもこの点一言添えて頂きたいものである。親の都合の日程で、無防備のまま小さい子どもを海外に連れ出すことは、危険ですらあることを強調しておきたい。

 ワクチン接種方式の違い(表5)「郷に入っては郷に従え」:例えば麻疹であれば、9か月から接種開始の国があったり、2回接種方式を採用する国も少しずつ増えてきている。DPT、DT、Tの追加接種方式なども国によってさまざまであり、日本方式がスタンダードというわけではない。このようなとき、特に長期滞在者に関しては渡航後には現地で採用されている接種方式に切り替えた方が有利であろう。一方滞在が比較的短期であったり、あらかじめ帰国予定の頃がほぼ予想されるのであれば、帰国後に日本方式に適応できるよう、渡航後も日本の接種方式を続けるように勧めている。ただし実際に滞在が長期にわたってくれば現地での生活にも慣れ、予防接種についても必然的に現地方式を取り入れることに抵抗はそれほどなくなってくることが多い。不安を感じるのは特に出発前と到着後のしばらくであることがほとんどである。ただし、いわゆる先進国へ出かける場合と、途上国へ出かける場合では事情は異なり、かなり柔軟に考える必要はある。

日本との違い:先進国あるいは途上国を問わず、外国での予防接種は日本と違ういくつかの特徴があります。
 1)同じ日に2種類以上のワクチンを接種する(医学的には全く問題がない)
 2)乳児では大腿前部の大腿四頭筋(ふとももの前面)に注射することが多い
 3)予防接種の前に体温測定しないことが多い(予診表がないことも多い)
 4)医療機関で個別に相談しながら、予防接種スケジュールを立てることが多い

 日本に帰国してのワクチン追加:渡航後に比較的長い一時帰国の機会がありそうな場合には(特に途上国からの一時帰国者に対し)、そのときを利用して日本で追加ワクチン接種を行うようにすることも一方法である。日本脳炎、DT、破傷風、A型肝炎、B型肝炎などがそれに相当することが多い。

■表5 日本と海外接種時期・回数の違い

 

日  本

海  外

 BCG  生後3か月よりツ反陽性まで  出生時1回、またはなし
 ポリオ  生後3か月より2回  生後2か月頃より3〜4回
 DPT  生後3か月より4回
 (P:acellular−無菌体百日咳ワクチン)
 生後2か月より3〜4回
 (P:whole cell−全菌体ワクチンも多く使用されている)
 DT  中1頃に追加  4〜6歳でDT、思春期頃にT追加などさまざま)
 麻疹  1歳より、麻疹単独1回  早期接種(生後9か月)
 同時接種(MMR)
 追加接種(4〜6歳または思春期)
 追加同時接種(MMR)などさまざま
 HB  HB/HBIG(対象限定)  出生時より3回(全新生児)

 

帰国子女・在日外国人の子どもへの予防接種の原則


 海外から帰国してきた子どもたち、日本へやってきた子どもたちに対しても、上記の海外渡航者への予防接種の原則は、ほぼそのまま海外から日本へ来た人への予防接種の原則、と読みかえて良いであろう。日本での予防接種を希望してくる外国人については、逆に日本と海外では接種種類や方法に違いのあることを説明した上で、日本スタイルを踏襲するのか、本国スタイルをできるだけ踏襲したいのかなどについて、あらかじめ聞いておくことができれば、より親切な方法となる。

 

日本と諸外国における
予防接種の実際についての相違点

 受けるワクチンの種類の違い(図1):世界各国でほぼ共通のものとしては、既に述べたEPI ワクチン、すなわち麻疹・ポリオ・DPT ・BCG である。B型肝炎ワクチンは、WHO では第7番目のEPI ワクチンとしてとらえており、これに従って出生した新生児すべてに接種するという方式を導入する国が増えつつある。

 日本では、日本脳炎が海外からみて特殊なワクチン(中国・韓国・タイでは実施、ベトナム・マレーシアでは一部で実施)であり、風疹・ムンプスは単独接種、水痘が実用化されている。インフルエンザは任意接種として幅広い年齢層への接種が可能となっているが、近年高齢者層及びハイリスク者を中心に広く接種が勧められている。

 一方海外では、麻疹・風疹・おたふくかぜはMMR として同時接種、ヘモフィルスインフルエンザb菌ワクチン(Hib)を採用する国が増えつつある。海外に在住する子どもたちが現地でMMR ・Hib を受けるメリットは高い。BCG は海外の多く国でEPIワクチンとして乳児期に行われているが、結核の状況が比較的良好である欧米諸国では、BCG接種を中止ないし選択的接種の方向にあるので、小児については、できるだけ日本にいるうちに接種を受けておいた方がよいと思われる。水痘を導入している国も増加しつつある。インフルエンザを導入している国の多くは、その対象者は高齢者などのハイリスク者としている。


図1
図1 予防接種:海外との比較


 接種方法の違い(表4):接種方法では、ことにBCG の違いに戸惑うことが多い。BCG の管針法(経皮接種)は日本独特のものであり、海外では皮下注射が原則である。管針法の方が局所反応は少ないという利点がある。BCG 接種前にあらかじめツベルクリン反応を行うということも、海外ではほとんどなされていない。ポリオはほとんどの国が経口生ワクチン(OPV−3回以上接種)を用いているが、欧米を中心として不活化ポリオ(注射-IPV)単独もしくはOPV との併用を採用している国が増加しつつある。米国では最近不活化単独を原則とすることに切り替えた。

 接種時期と回数の相違(表5):接種時期については、総じてBCG、OPV、DPT、HBなどの開始時期は日本より早い。なるべく早く免疫をつける必要があるという基本的な考え方で行われているからである。麻疹については多くの国が1歳から開始をしているが、乳児麻疹の予防から生後9か月から開始する国も多い。また麻疹対策を徹底的にしようとするところから、2回接種法式を導入する国も増加している。この際、麻疹のみならずMMR2回接種という方式を採用する国も少なくない。

 わが国あるいは海外で行われることの多いワクチンについて表6にまとめた。

■表6 わが国及び海外で行われているワクチンの一般的な接種法

ワクチン名 種類 基礎接種回数 接種間隔 接種可能年齢 追加接種
(日本で定期予防接種の対象になっているワクチン)
BCG※ 生菌 1 生直後より可 なし、日本ではツ反陰性時
ポリオ※ 経口生ワクチン
3
4週間
生直後より可 12〜18か月後
不活化ワクチン 3 4週間 生後6週 12〜18か月後
三種混合※ 不活化ワクチン 3 4週間 生後6週 12〜18か月後
二種混合 不活化ワクチン 2 4週間 生後6週 6〜12か月後
破傷風 トキソイド 2 4週間 通常6歳以後 6〜12か月後その後10年ごと
はしか※ 生ワクチン 1 9か月 6〜12歳が望ましい
風疹 生ワクチン 1 12か月 場合により思春期
日本脳炎 不活化ワクチン 2 1〜2週間 3歳 1〜4年後
(必要に応じて日本で接種しているワクチン)
おたふくかぜ 生ワクチン 1 15か月 なし
水痘 生ワクチン 1 12か月 なし
インフルエンザ 不活化ワクチン 2 4週間 生後6週 12か月後
B型肝炎※ リコンビナント 3 4週間 生直後より可 なし
肺炎球菌 蛋白多糖体 1 4週間 2歳 5年以上
(海外に行くときに必要になることがあるワクチン)
黄熱 生ワクチン 1 9か月 10年
A型肝炎 不活化ワクチン 2・3 4週間 生直後より可 12〜18か月後
狂犬病 不活化ワクチン 3 7日、28日 12か月 12か月後、その後2〜3年ごと
コレラ 生・死菌ワクチン 1 1歳 3〜6か月後
ペスト 不活化ワクチン 3 18歳 6か月後
(日本で入手できないワクチン)
MMR 生ワクチン 1 1歳 6〜12歳が望ましい
Hib 蛋白多糖体 3 4週間 生後6週 6〜12か月後
腸チフス 経口生ワクチン 3 2日 6歳 1年後
髄膜炎菌性髄膜炎 2価・4価 1 2歳 3〜5年後

原表:中村安秀責任編集「海外に行く 親と子の予防接種/母子衛生研究会」を一部改変、「International Travel and Health WHO, Geneva, 1994 P80-81及び2000 Red Book, American Academy of Pediatrics P24」を改変
※:EPIワクチンとされるもの

 

海外で受けるワクチンの品質について

 国内ですべてのワクチン接種を済ませるわけではなく、滞在先で行うときもある。また国内では入手できないワクチンもある。いわゆる先進国であれば問題はないが、途上国ではWHO の品質基準を満たしていないワクチンを生産している国も少なくないので、現地で接種を受ける場合には、外国人への予防接種に経験のあるクリニックでの接種の方が一般的には無難であると言わざるを得ない。また一部では停電や電圧などの問題から冷蔵(凍)庫での保存状態に疑問のある地域も少なからずあるので、この点も信頼のある医療機関での接種を勧める。使い捨ての注射器・針類はほとんどのところで入手可能であるが、場所によっては、確認を要することもある。

旅行目的別に勧められる予防接種の目安

 子どもたちに対しては、わが国で行われている定期接種ワクチンを年齢に応じて済ませていることが望ましい。大人を含む年長者であっても、旅行者がこれらの基本的なワクチンを接種していない場合には、極力接種を済ませておいた方がよい。そのほかに旅行者(大人)に勧められるワクチンの目安としては次のようなものが旅行目的別に挙げられる。

 短期のビジネス旅行者:先進国への旅行であれば通常はそのほか特に接種を勧めるワクチンはない。欧米以外では、A型肝炎ワクチン、入手可能であれば腸チフス経口ワクチンが勧められる。アフリカ・南米地方では黄熱ワクチンが必要である。

 通常範囲の団体観光旅行者:特別な予防接種は通常必要としないが、一般的な衛生(食事・飲料水・手を洗うことなど)については十分注意を促す必要がある。アフリカ・南米地方では黄熱ワクチンが必要である。

 通常範囲の個人旅行者:特別な予防接種を必要としないことが多いが、旅行費用そのものを安上がりにして多くのものに触れようとする若者達の旅行の場合には、そのためにホテルや食堂など国内と違った不潔な環境にとどまることがしばしばあるので注意が必要である。地域によっては、ビジネス旅行者に対するワクチンに加えて、B型肝炎、狂犬病などを考慮することがある。

 冒険旅行者:医療機関へのアクセスが不良である地域への旅行が含まれるため、旅行者自身による病気に対する初期対応の知識の習得、訪問先の感染症に関する情報入手、基本的な予防接種を確実に行っておくことに加えて、日常の基本的なワクチンの他に旅行医学として必要とされる予防接種(破傷風・日本脳炎・A型肝炎・B型肝炎・狂犬病・ペスト・腸チフス・髄膜炎菌性髄膜炎・ダニ脳炎など)を地域での流行状況を参考にして可能な限り行っておくことが勧められる。

 海外ことに発展途上国でのボランテイア活動及びそれに準じるもの:冒険旅行者とほぼ同様の注意が必要である。

 長期滞在者:基本的に必要なものはわが国とほぼ共通と考えて良いが、滞在先によって異なる点については、郷に入っては郷に従え方式で、現地で必要とされるものについて現地方式で行うことが勧められる。ただしワクチンの品質や接種方法については、前述のような注意が必要である。

 

行き先別に勧められる予防接種の目安

 行き先別によって必要と思われる予防接種について、成人用(表7)、小児用(表8)としてまとめた。入国の際に法律として接種を求められるのはアフリカ諸国における黄熱であり、一部国でコレラが求められることがある。そのほかの多くは個人の意志(希望)によって行われるものである。表にあるものはあくまで一般 的な目安であり、また該当年齢で基本的に必要なワクチン(定期接種)は終えているということが原則である。各国の詳細については個別 に問い合わせを行う必要があるが、それらの情報の入手先について表9にまとめた。


■表7 成人用・旅行先別の予防接種チャート(あくまでも一般的な目安である)

ワクチン名 派遣地域

北米

中南米

東アジア

南アジア

中近東

アフリカ

西欧

東欧

ポリオ

×

×

×

×

ジフテリア

×

×

×

×

×

×

×

破傷風

日本脳炎

×

×

×

×

×

×

A型肝炎

×

×

×

B型肝炎

×

×

×

×

狂犬病

黄熱

×

×

×

×

×

×

コレラ

×

×

×

×

×

×

×

×

腸チフス※

×

×

×

×

髄膜炎菌性

×

×

×

×

×

×

髄膜炎※                
ペスト

×

×

×

×

×

×

×

×

○ 接種が必要 △ 場合により接種必要 × 接種不要
※ 日本では入手できないので、現地で接種する

原表:中村安秀責任編集「海外に行く 親と子の予防接種/母子衛生研究会」を一部改変、「International Travel and Health WHO, Geneva, 1994 P80-81及び2000 Red Book, American Academy of Pediatrics P24」を改変


■表8 子ども用・旅行先別の予防接種チャート(あくまでも一般的な目安である)

ワクチン名 派遣地域

北米

中南米

東アジア

南アジア

中近東

アフリカ

西欧

東欧

BCG

ポリオ

3種混合

はしか

日本脳炎

×

×

×

×

×

×

B型肝炎

×

×

×

×

黄熱

×

×

×

×

×

×

○ 接種が必要 △ 場合により接種必要 × 接種不要

原表:中村安秀責任編集「海外に行く 親と子の予防接種/母子衛生研究会」を一部改変、「International Travel and Health WHO, Geneva, 1994 P80-81及び2000 Red Book, American Academy of Pediatrics P24」を改変

図2

 

表9 海外旅行者へのワクチン接種に関する情報

図書・刊行物

 1.改訂・感染症マニュアル
   監修・厚生省保健医療局結核感染症課
   小早川隆敏、岡部信彦他著
   発行・マイガイア  1999
 2.海外母子保健情報 アクセスガイド
   監修・岡部信彦 発行・母子衛生研究会 1998
 3.海外保健医療情報
   発行・厚生省/成田空港検疫所 2000
 4.海外に行く 親と子の予防接種
   監修・中村安秀・岡部信彦・小野崎郁史
   発行・母子衛生研究会

インターネット検索
 1.子育てインフォ
   http://www.mcfh.or.jp/
   母子衛生研究会
 2.JICA-任国情報
   http://www.jica.go.jp/
   国際協力事業団
 3.海外勤務健康管理センター−海外赴任者のための地域情報
   http://www.johac.rofuku.go.jp/
   労働福祉事業団

電話での問い合わせ先

 1.海外勤務健康管理センター(労働福祉事業団)
   対象:個人
   Tel:045-474-6001
 2.海外邦人医療基金
   対象:法人
   Tel:03-3593-1001
 3.成田空港検疫所検疫課
   対象:個人
   Tel:0476-34-2310

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