アメリカで自宅出産(家庭分娩/ホーム・バース)
by S.H.
■私が自宅出産を選んだ理由
私が、自宅出産(ホーム・バース)を選んだ一番の理由は、第一子の病院出産が、冷たい病院の壁に囲まれたベッド の上で、まるで「まな板の鯉」のように大きなお腹にモニターをつけられて長時間仰向けになったまま、全てのプロセス が完全に他人主導で行われたことに非常に不満足だったからです。第二子を妊娠したとわかった時、今度は絶対に1 00%自分主体のお産にしたいと思い、お産に関する本や雑誌を読み、自宅出産という選択肢があることを知りました。
自宅出産をするにあたって、不安がまったくなかったと言えば嘘になりますが、最終的には、非常に満足の行くお産に なりました。正に「自分で産んだ」という実感のできるものでした。とは言うものの、この選択は既にお産を経験済みだ ったから、挑戦できたことで、初産だったら、やはり未知のお産に対するの不安が大きすぎて、自宅出産は選ばなか ったかもしれません。
妊娠中にも、いくつかの心配や不安や疑問はありましたが、検診の度にミッドワイフが常に時間を惜しまずにひとつひ とつの質問に懇切丁寧に答えてくれたので、最後まで乗り切れたように思います。検診日を待たなくても、電話でいつ でも気軽に直接話すことができたのも、安心材料のひとつだったと思います。
自宅出産を考えている方のために、私の体験を書かせていただきます。
■陣痛開始→ミッドワイフ到着
予定日の二日後の夜11時、いきなり15分おきの陣痛が始まりました。一時間待って確かに定期的な本当に陣痛か を確かめてから、ミッドワイフに電話をしたところ「8分間隔になってから、もう一度電話をするように。多分、朝方まで かかるだろう。」と言われ、一端は電話を切りました。ところが、1時間も経たないうちに、陣痛は5〜8分間隔になり、 慌ててまた電話をかけました。ミッドワイフは過去700人以上のお産を手がけているので、少しも動じず、「じゃ、今か らシャワーを浴びて行くからね。」と実に悠然としたもの。
とりあえず、寝ている夫を起こしてから、陣痛の痛みを紛らわすために、テレビでCNNのニュースを見ながら待つこと1時間。午前3時。
ミッドワイフがアシスタントとともに到着。二人がかわるがわる脈を取ったり、血圧を測ったり、胎児の心音を聞いたり、 陣痛の合間におしゃべりをしたりしながら、数時間をすごしました。
陣痛は、相変わらず5分おきでしたが、子宮口は、まだ2センチと開いていなかったので、ミッドワイフの二人は、リビングの床にゴロンと横になって、「あなたも、これから体力がいるんだから、できるだけ眠っておきなさい。」と言って寝 てしまいました。
夫も、それを聞いて安心し、一緒になって眠ってしまい、私だけは5分おきの陣痛でとても眠れるはずもなく、一人でウンウンうなっていました。さすがに夫だけは、ウトウトしながらも目をつぶったまま、お義理に片手で足や手をさすってく れていました。
■本格的な陣痛→破水
夜も白み始めた頃、いよいよ陣痛の痛みが激しくなりました。ミッドワイフも、やっと起き出し、二回のベッドルームにシャワーカーテン(カーペットを汚さないためで、あらかじめ買っておくように言われていました。)をしいたり、必要な医療器具をそろえたりと準備を始めました。
陣痛の間隔は、さらに短く強く大波のように押し寄せるようになり、ミッドワイフと夫が絶えず足や腰をマッサージしてくれていました。ミッドワイフは、さすがにプロで、彼女が穏やかな声で「ふかーく息を吸って、リラックスして」などと言いながら、腰をさすってくれると、痛みが嘘のように和らぎました。
しばらく、自然破水を待っていたのですが、なかなか破水しないので、ミッドワイフが破水させたのが10時頃。それからいきむこと1時間半。ミッドワイフは、会陰を自然に伸ばすために、休みなく暖かいタオルを当てたり、指でオイルマッサージをし続けてくれていました。破水してからは、絶えず歩き回ったり、トイレに行ったり、しゃがんだり、横になったりしていましたが、最後のいきみの瞬間、あおむきでは力が入らないと感じ、とっさにベッドの端をつかんでしゃがみ姿勢をとりました。何と言っても、このクライマックスが、病院と自宅出産との最大の違いだったと思います。
第一子の病院出産の時は、先にも書いたように病院に入ってから出産の瞬間まで約6時間、完全に分娩台に仰向け状態でうめいていたのに比べ、今回は、陣痛の合間に、少なくとも10数回はトイレに行ったり(できるだけ膀胱を空にした方が、陣痛の痛みが少ないそうです)、歩き回ったり、バスタブにお湯をはってリラックスしたりしていました。
一人目の子の時は、2回いきんだだけで産まれたのに、今回は、何度いきんでも出てこず、あまりの痛みに「出ない出ない、どうして出てこないのー。」と思わず叫んでしまった私に、ミッドワイフが「もう赤ちゃんの頭が出る寸前よ。触ってみなさい。」と言って指を赤ちゃんの頭に触らせてくれました。本当に赤ちゃんの生暖かいブヨブヨした頭が指に触れました。
■最後のいきみ→出産
とにかく、赤ちゃんの頭に触れ、もう少しだという思いに励まされ、最後の力をふりしぼっていきむこと数回、「頭が出てきた。」と皆の叫ぶ声。
そして、ついにニュルッという感じで、赤ちゃんの全身が出てきました。ミッドワイフがすばやく赤ちゃんの鼻腔と喉をスポイトできれいにした途端、赤ちゃんが産声をあげ、紫色の体が、まるで突然命を吹き込まれたかのように、みるみる 赤に染まっていきました。そして、まだへその緒も切らないままの血でベトベト、ぬるぬるした赤ちゃんを私の胸に抱かせてくれました。
数分後、夫がへその緒を切り、無事、一件落着、と思いきや、その後、胎盤を出したり、お腹の中にたまっている血を出すということでお腹を思い切り押され、それのまた痛いこと。さらに追い討ちをかけるように「ちょっと休んだら、シャワーを浴びてね。尿が出やすくなるから。」といわれ、ほぼ強制的に二人のミッドワイフに両脇を支えられながら、なんとかバスルームまでたどり着きシャワーを浴びさせられました。でも、これだけは、私にはやはり体力的に無理だったようで、シャワールームで頭がくらくらして倒れこんで、そのまままたベッドに寝かされました。
■自宅のベッドで
でも、その後は、まるでお産をさっきしたのが嘘のように、もう自宅の自分のベッドで 家族に囲まれて赤ちゃんに母乳を飲ませていました。
会陰は、初産の時に7針縫ったところが、ちょっと避けたということで、一針縫っただけでした。以前は、会陰切開の跡が痛くて二週間はまともに歩くことも座ることもできなかったのに、今回は3日目には、痛みもほとんどなくなり、1週間で完全に回復していました。それだけでも自宅出産を選んだ価値があったと思いました。
胎盤は、数日前に記念にと買っておいた桜の木の根元に夫が埋めました。(ミッドワイフのアイデア)
■病院出産Vs.自宅出産 in U.S.A.
最後に自宅出産に興味のある方のために、私の気づいた病院出産との違いなどを、書いておきます。
アメリカの助産婦さんは、日本の助産婦さんより業務範囲が広く、妊娠の診断、妊婦検診、出産介助、産後検診、婦人科検診、処方箋など行っています。保険も医師にかかるのとと同に使えます。
私のかかった助産婦さんは、小さいながら独自のクリニックを持っていましたが、病院の一部にクリニックを構えている方もいるようです。第一子の出産の時にもかかりつけの産科医に雇用されている形の助産婦さんがいましたが、出産の際には、医師が主導してい助産婦さんは、あくまでも医師の介助役という感じでしたが、自宅出産では、主役は私、そして助産婦さんが頼もしい介助役という印象でした。
ミッドワイフのオフィスでの検診は妊娠初期は月に1回、後期に入って隔週、妊娠最後の2週間は週に1回と、診察回数は、ほぼ普通の産婦人科にかかるのと同じでした。
予定日より一ヶ月前になると、ミッドワイフが家の確認のために家庭訪問をしてくれました。以前の産婦人科検診では、行く度に膣内のチェックがありましたが、ミッドワイフの診察には、それがほとんどありませんでした。初診の時と、予定日2週間前の検診の時に子宮口がちゃんと閉じているかをチェックした2回だけでした。これは内診すると却って、流産や早産の要因になるという理由だそうです。
毎回の尿検査と体重、血圧値、お腹の大きさの測定、赤ちゃんの心音チェックが診察の主な内容でした。また州に定められた血液検査というのがあるそうで、妊娠中数回、血液採取をしました。
私の場合、それだけでは、やはりちょっと不安があったので、妊娠18週目で、近くの病院での超音波検診(ソノグラム)をアレンジしてもらいました。
現在のソノグラムは、とても進歩していて、大抵の胎児の異常は発見できるのだそうです。希望すれば羊水検査も受けられます。その他、妊婦さえ希望すれば、病院に足を運ぶことになりますが、どんな検査でもしてくれます。州によってはホームバースが禁止されている所もあるようです。
また、妊娠中2回、ミッドワイフが契約している自宅近くの産婦人科の医師の診察を受けました。これは、万万が一の
時に病院に搬送された時に世話になる産婦人科の医師です。また、この産婦人科の医師に、「妊婦は健康であり、自宅出産できる」と太鼓判をおしてもらうための検診でもあります。少しでも、妊婦に異常があった場合は、自宅出産を選ぶことはできません。
自宅出産というと、なんだかちょっと原始的なイメージがあるかもしれませんが、助産婦さんは、いよいよお産という日には、酸素ボンベを含む、いろいろなものを担ぎこんで、病院に準備してある一般の道具は全てあるという感じでした。
ミッドワイフのオフィスでは、実際に自宅出産した方のビデオや写真が置いてあって、リアル過ぎてちょっと引くようなものもありましたが、大変参考になりました。
現在、アメリカでも、自宅出産を選ぶ人が少しずつですが増えています。たとえばスーパーモデルのシンディー・クロフォードも自宅出産したことで有名ですし、ジョディー・フォスター、ケイト・ウィンスレット、デミー・ムーアも自宅出産だそうです。 (私のミッドワイフは、トム・クルーズのお姉さんの介助もしたそうです。)でも、産婦人科医の中でも自宅出産反対派のような人がいて、時々、自宅出産は危険だと唱える記事を雑誌や新聞に書く方もいます。実際、第二子出産前にかかっていた産婦人科医は、私が自宅出産を考えていると告げた途端に、絶対にやめた方がいいと強い口調で言いました。でも、もう私の心は固まっていたので、その産婦人科医には二度と足を運びませんでした。
初産で自宅出産の自身はないという方のために、普通の部屋のようなアットホームな雰囲気の病室で、できるだけ自然な形でお産をさせてくれるバースセンターという選択もあります。家庭的雰囲気の元でお産をさせてくれるということですので、Yellow Pageやネットで調べてみて見学してみるといいでしょう。
助産婦さんは、医師よりもずっと診察に時間をかけてくれますし、妊婦さんとの人間関係を大切にしてくれ、来たるべき出産の時に、できるだけ良い経験ができるように精神的にも援助してくれます。P.S.出産には5歳の長男と義理の母も立会いました。義理の母は、5人の子どもを生み育てているのですが、当時は、全身麻酔で寝ている間に赤ちゃんを取り出してしまうというのが一般的で、一度も実際のお産を経験したことがないというので、よろしかったらどうぞ、ということになりました。(義理の母は天使のように優しい人で長男の時の産後も至れり尽くせりで世話をしてくれたりもしたので、全然、抵抗はありませんでした。)
息子には刺激が強いかな、とも思ったのですが、助産婦さんいわく、子どもが立ち会うことはよくあることだということで生命の神秘を見せることにしました。助産婦さんの助言で、妊娠期の検診には、必ず息子を連れて行き、赤ちゃんの鼓動を聞かせたり、ソノグラム写真を一緒に見たりしました。また、助産婦さんから出産ビデオを借りて、実際の出産の様子を一緒に見て、とにかく予習を十分にしたので、息子は本番でも、まったく動揺することなく、弟の誕生に立ち会うことができました。