



カリフォルニア州のサンフランシスコから車で1時間ぐらいのところに住むリンダさん一家には、現在、19歳、17歳、16歳、10歳の子どもたちがいます。
いちばん下の、女の子のミッシェルちゃんは、脳性まひという障害を抱えて生まれてきたため、生後1年間の間に5回手術を受けなければなりません。現在、知的に大きな遅れがあり、また足にも障害があるため、学習でも生活でも、第三者の助けが常時必要です。
ミッシェルちゃんが生まれるまでは、上の子どもたち3人は、一度も幼稚園や学校へ行くことなくホームスクールで育ってきました。ですが、緊急入院が度重なり、ホームスクールは断念せざるをえなくなり、子どもたちはその後、学校へ通っています。
4人の子どもを育ててきたこと、3番目の男の子が学習障害があること、4番目の女の子が重い脳性まひであることから、リンダさんの苦労は並大抵ではありません。そんなリンダさんの家でインタビューをさせていただきました。
ミッシェルちゃんは、茶色い髪のとても愛くるしい女の子です。ニコニコしていて、とてもしっかりとした感じがあり、外国からお客さんがきているにもかかわらず、自信を持って学習している場面を見せてくれました。
リンダさんにとってのミッシェルちゃんの現在の目標は、勉強をするときに、周りに手伝ってもらわずに、ひとりで学習ができるようになることです。
キッチンにある大きなテーブルには、ミッシェルちゃんが使ういろいろな教材が置いてありました。その日の午前中の科目は、算数と理科、国語でした。
算数は、掛け算の勉強です。
リンダ「いつもこれを使って勉強するのよ」
そう言って、手のひらサイズの長方形の板を取り出しました。
リンダ「ミッシェル。どうやって使うか、見せてあげてね」
板には両端に9個ずつのくぼみがあり、左右のくぼみにある順番で糸をかけていくと、九九の勉強ができます。日本とは違って、道具と、目や指を使って体験的に覚えていきます。これは、ホームスクーラーにとっては、とても人気ある道具の一つです。
(アメリカでは、九九表はありますが、2かける2は4、というように、ひとつひとつ覚えていきます。ににんがし のようなお経式の九九はありません。)
ミッシェルちゃんが、上手に板の使い方をデモンストレーションすると、
「ありがとう、ミッシェル。とても良くできたわ。さあ、ここに問題があるから解いてみてね。」
10分ぐらいして、ひととおり簡単な練習が終わりました。リンダさんは、ミッシェルちゃんに、大きな声で、大変にゆっくりと、はっきりとした声で話しかけます。
「ミッシェル、できたかどうか、お母さんに見せてね。・・・全部できているわ。よくできたわ。えらいわよ。じゃあ次は、理科の復習よ。昨日やったところね」
いつもは台所でできる簡単な実験が多いようですが、この日は、ドリル式の教科書で問題を解きました。
「ミッシェル。できたかしら。どらどら見せて。(見せてくれて)ありがとう。・・・オ〜ケイ。ちゃんと解けてるわね。よく努力しているわ。」
1ページが終わったので、次は国語です。この日は、簡単な文章を作る練習をします。
「どう? 文章はちゃんと作れたかしら? ・・・・なかなかいいわね。でも、もう少しほかの単語を入れてみると、もっとわかりやすくなるわ。ちょっとトライしてみるといいわ。できるかしら? あなたならできるわ」
ここまでがひとつのサイクルです。
「とてもよくできたわ。(一生懸命勉強してくれて)ありがとう。たいしたものよ。そろそろ休憩タイムだけど、どうする?」
「ちょっと休む。」
「そう、ジュース、いる?・・・」
10分間ほど休憩があり、トイレへ行ったりおやつを食べます。部屋の中では、車椅子や松葉づえは使わず、ミッシェルちゃんは、床の上を手を使って移動します。
そして、休憩後は、また算数の練習が始まります。
「次は、さっきの九九をドリルでやりましょう。ひとりでできるかしら?」
「うん」
「じゃあ、ここの問題からね。がんばって。」
式教科書を使ってさきほどの九九を使って計算をときます。10分ほどして、問題を3つほど終えると、
「さあ、どうだった? 見せてね。(見せてくれて)ありがとう。とてもよくできているわ。でも、ここの答えがひとつ違っているわ。もう一度トライしてみない?」
そして、このあとに、理科と国語が続きます。
2人の勉強する姿を見ていて感じたのは、リンダさんの忍耐力のすごさ。声はいつも、ゆっくりで大きく、はっきりとしています。そして、10分から15分感覚で、ひとつずつていねいに科目をこなさせていくのです。
これは、学校の特殊クラスで使われる手法より、さらに丁寧で細かい作業です。研究機関では、たくさんの研究者や教師がこのやり方を何年もかけて、このような手法をあみだしてきたのですが、リンダさんは、経験的にミッシェルちゃんからこの方法を学んだそうです。10人の研究者よりも、ひとりの忍耐強い母親のほうが、より実践的な手法を体験的に早く習得できるということだと思いました。
とても勉強になったのは、「認める」「ほめる」「励ます」の接し方です。全部できたときには、いっぱいほめる。間違っていても、その問題に挑戦したことをまずほめる。それから、間違ったところを指摘して、もう一度、トライするように励ます。それをあきることなく延々と繰り返すのです。
ミッシェルちゃんは、とても素直な良い子で、お母さんにほめられながら、ニコニコしながら問題を解いていました。毎日がハッピータイムに過ぎるのではないのでしょうが、教え方の基本が、楽しい、子どもを尊重し認める、忍耐強い、子どもを信じる、子どもをあきさせない、常に進歩があることを子どもに感じさせるということで、子どもには、充実した時間です。
リンダさんのミッシェルちゃんとの勉強の仕方は、この町の障害をもつ親の間では、モデルケースとしてとても有名です。教え方もすばらしいのですが、子どもへの接し方、そして、生き方は、たくさんの家族に勇気を与えてくれています。
では、いったいどのような過程が、今のリンダさんをここまで育てたのでしょう? それにはいくつかの要因があります。
ひとつは、上の3人の子どもをホームスクールで育ててきたため、勉強のさせ方をよく知っていたことです。
「ホームスクール始めようと思ったのは、長女が幼稚園に入る歳半のときだったわ。とても利発な子だったけれど、体も他の子に比べて小さく、とても恥ずかしがり屋だったことから、幼稚園に入れないほうが良いと思ったの。でも、回りの人達と交流することで、いろいろな影響を受けることはとても重要だと思っていたので、1年間だけホームスクールをすることにしたわ。
周りにはホームスクールをしている家族があって、4家族だったんだけど、みんなで見学に出かけたり、お互いに教えあったりしたの。とてもそのやり方が気に入って、長女が中学2年のときまで、ずっとホームスクールをしたわ。11年ぐらいかしら。」
ホームスクールでは、義務として、いろいろな科目を子どもたちと一緒にこなしてきました。楽しく!がモットーで、体験学習を教科書に結び付けていくというやり方でした。
リンダさんは、かつて3人の子どもたちがまだホームスクールをしていたころの人体学についての手作り作品を見せてくれました。それは、子どもたち自身の人体図でした。
「たとえば、体の仕組みについて学ぶときは、まず、図書館から、体の中の図解が描いてある本を借りて、それを読ませるの。次に、それを体験的に学べるように、大きな模造紙に自分の体の輪郭を描かせたわ。壁に模造紙を貼り付けて、その前に立って、ほかのきょうだいに、輪郭を描いてもらうの。
その後、脳、心臓、腸、骨の絵をコピーしてきて、それぞれ自分たちの人体の中に、貼り付けていくのよ。
手のひらに絵の具をつけて、それを模造紙に押し絵のようにギュッと押し付けるの。」
手を見ると、5本の指の指紋がきれいにあってびっくり。
「指紋作りは、子どもたちには大好評だったわ。やり方は、警察がやっている方法を本で調べたの。自分の指を鉛筆で真っ黒に塗り、セロハンテープでコピーをとって、それを模造紙の自分の手の指のところに、ギュット押し付けるのよ。これで、完璧な指紋がとれるわ。
関節について学ぶときは、鶏肉をボイルさせて関節を取り出して、それを観察させたの。においは、フィルムケースに物を入れて、においをかがせたわ。」
「うわ〜、すごいですね。ほかに、印象深い体験学習はありますか?」
「ええ、たくさん! 脳は、牛の脳をスーパーで買ってきて、それを解剖したわ。脳の図には、色塗りもさせたの」
「え〜! 気持ち悪くありませんでした?」
「ちょっとね。魚も解剖したことがあるわ。
そうそう、子どもたちが今でもよく覚えている実験があるわ。
知り合いがいるある学校では、動物を使った研究をしていたの。あるとき、いらない解剖用の豚があるけど、欲しいか?と 聞かれ、もちろんと答えて、車でと取りに行ったの。
冷凍された子豚だったんだけど、それをホームスクールの仲間といっしょに、台所のテーブルで解剖しまの。
よしこ「子どもたちの反応はどうでしたか? 気持ち悪いとか言ってませんでしたか?」
リンダ「私も、子どもたちが気持ち悪がるかと思っていたけど、みんなドキドキはしていたけど喜んでたわ。
よしこ「誰が第一刀を入れたんですか?」
リンダ「わたし」
よしこ「勇気ありましたね。」
リンダ「今から思えば、よくやったと思う。皮膚を切って、その中をのぞくと内臓があったの。誰かが、心臓の位置を知りたいというので、つまようじを突き刺して、皮膚から心臓までの距離を測ったの。そのあと、ひとつひとつの内臓の位置を確かめて、取り出して観察したわ。
息子が、肺の中に自転車の空気入れで空気を入れたいと提案したの。みんなびっくりしたけど、やってみようっていうことになったの。実際にやってみると、肺は驚くぐらいに風船みたいにふくれたわ。その様子はビデオにおさめてあるけど、息子は、今でのその様子を忘れないって言っている。
こうやって、体の中の名称や仕組みを勉強したときには、それを人体学、さらに解剖学までに発展させたの。
夜になると、昼はいっしょに参加できなかった父親が、子どもたちが作ったポスターや作品を見て、それを話題にして話をしてくれたわ。父親に報告することで、記憶がもっと深まるの。」
「最初のころは、朝の7時から夜中の12時まで、家事をこなしながら3人の子どもたちをホームスクールで育ててきたわ。当時は、本当に大変だった。でも、子どもたちが大きくなると、自分でやりたいことをみつけて、自学自習できるようになってきたわ。
結果的にいろいろな面で芽が出て、子どもたちが自信をもつことができるようになったわ。
子どもは、ひとりひとり学び方が違うわ。机に向かって学ぶ子もいれば、体を使って覚える子もいる。
長男は、カードを使って足し算の問題を出していたけど、九九は、室内用のトランポリンでジャンプしながら覚えたの。
次男は、私が、物語や歴史の本を読んでやっている間、カードやレゴとかゲームをしていたわ。何も聞いていなかっただろうと思って、読み終えたあとに、本の内容について質問してみたら、ちゃんと答えたのでびっくり。次男は、学習障害があるけれど、体を動かしながら、話を聞いたり、何かを学ぶことができるるのよ。」
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