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執筆者:早津邑子(NYこどもの国幼稚園園長)

1981年にNYで日本人の子ども達のために幼稚園を設立。以来、異文化、異言語の中で育つ子ども達を見つめ続けてこられました。

1981年 NY「こどもの国幼稚園」を設立
1994年 NY州認可「学校法人こどものくに」となる

 

バランスよい子どもを育む

早津邑子(NYこどもの国幼稚園園長)

■子どもの人権を尊重することと子ども中心の生活を送ることとは根本的に違い

幼児教育に携わって30年以上、時代の変遷とともに子ども達の生活スタイルもかなり変わってきました。物質的にとても豊かになったけれども、精神的な豊かさをどんどん失いつつある日本の姿を、子ども達の遊びを通して見えることが多くなりました。ニューヨークは東京を小さくしたような都市で、この30年ほどの間に、アトピー体質の子どもの異常な増え方や、子ども中心の生活を送っていらっしゃる家庭が増えたことに危機感を感じたりします。子どもの人権を尊重することと子ども中心の生活を送ることとは根本的に違います。子ども達の何が変わっていったのでしょう。

1.少子化のため、子ども達一人一人、自分の希望をかなえてもらえる場が多くなり(個室も含めて)、我慢をしなければならない機会が少なくなった。

2.自分の言いたいことを、表現できる子どもが多くなった反面、人の話を聞く態度が身についておらず、自己中心的な子が増えた。

3.好きなことには集中できるが、興味のないことには全く取り組もうとしない子どもが増えた。

この3点が一番大きく変わったと感じています。これらは現代の子ども達の長所でもあり、短所にもなっています。のびのび育っている子ども達が豊かな感受性や表現力に恵まれている反面、自分の言いたいことが終わったら、すぐに勝手なおしゃべりを始めてしまう場面を見ることも多々あります。我慢が出来ないことも、子ども中心、子ども優先の生活をしている弊害のように感じます。「個性を育てる」「主体性を大切に」などが叫ばれ、人と違うことが「個性」だと履き違えてしまったのではないでしょうか。子育ての場でも出来るだけ他の人との違いを強調したいとの願望が強くなったのは、日本経済が頂点を迎えるバブル期の始まりあたりだったと思います。

1970年代の一般のアメリカ人は、日本がどこにあるかも知らなかったし、ジャパンという言葉をテレビやラジオで聞くことも殆どありませんでした。極東の小さな島国は、1980年代、どん底のアメリカ経済と対照的な時代を迎え、豊かさの代表である「円」を世界中にばら撒きました。もちろん、その豊かさの中に子ども達も含まれていたのは言うまでもないことです。

そして、子ども達は、

* 学歴社会を反映して教育熱が高まり、塾の繁栄とともに家族で食卓を囲む機会を奪われた。

* 子どもが欲しいと思ったものは、割合すぐに手に入り、「楽しみに待つ」体験を与えられずに育っている。

* 小型のビデオカメラの開発とともに、子どもの成長の過程はビデオに残され、自分が中心の録画を見て育っている。

■あまりにも忙しい日本の子ども達

一般的に子どもの健やかな成長を望まない親はいないでしょう。小さい頃からいろんな習い事をさせるのは、「子どものよりよい成長と可能性」を願うからこそです。しかし、子どもの側から見ると、親の思いが強ければ強いほど迷惑な願いなのです。乳幼児期は自我が育つときで、自分で何でもやってみたい、出来るようになるためには何度も何度も同じことを繰り返すことが出来るゆったりした「自分の時間」と、必要なときはいつでも助けを求められる大人が側にいてくれる環境が必要です。「英才教育」、「早期教育」と言葉は、生活のゆとりを削ってまでも「うちの子も」とその気にさせるうたい文句が掲げられています。今では、1才、2才からの習い事も珍しくなくなりました。その結果、親子でゆっくり向かい合って遊んだり、不思議なことに出会って、何度も自分で確かめたりといった、自己実現の体験が充分なされないまま育っています。

お稽古事や習い事は自分で選択できる5、6才からでも決して遅くありません。学齢期前後の好奇心と探究心は、頭で考えたことが大体そのとおり表現出来る技術も身につく頃で、心身のバランスがある程度整う年齢です。お稽古事で自由な時間のない生活から、子どもを解放してあげましょう。

■子どもの成長には順番がある

乳幼児期は、教えれば何でも覚えていきますので、よく「赤ちゃんは天才」と言われます。でも、人格形成の大切な時期で、心を耕す時期に経験しておかないと後で取り戻すことが出来ないものがたくさんあります。では、どんな成長をするのが望ましい姿なのでしょう。

1.規則正しい生活― 早寝、早起きを心がけましょう。

            バランスのよい食事をとる。食事の時間も短めに、よく噛んで。

 2.身体を動かす − 歩く、走る、跳ぶ、転がるなど、適度な運動は全体の発達を促します。

 3.楽しく遊ぶ  − 安心して遊べる場で、思いっきり笑いましょう。

 4.身辺自立   − 自分のことは自分でする習慣をつけましょう。

            衣服の着脱、排泄、手洗い、自分で食べる、そして、お手伝いは

            子どもの自信になります。

5.豊かな体験や経験―見る、聞く、味わう、触れる、感動する

            子どもが体験や経験したことをすぐに共感してあげましょう。

 6.聞く、話す  − お話を聞いて楽しむ、自分の気持ちを言葉で表現する。

7.思考、模索するー 言葉と心を育み、学びたい気持ちを育てます。

早くに文字を読んだり、書いたり、英語の発音がよかったりしても、幼児期に基本的生活習慣の自立が出来ていないと、子ども自身の「生きる力」や「学ぶ楽しさ」につながっていかないのです。子ども時代に「自分で自分の事をする習慣」と「楽しい遊び」をしっかりしておけば、判断力や持続力、集中力、行動力を備えていきます。

■聞く姿勢を育てる意味

小さいときに周りの大人に振り回されず、ゆったり過ごせる環境で育ったお子さんは、自分でいろんな体験をしていますから、人としての受け皿が大きくなります。表現できる現代っ子たちの可能性は大きく広がっていますので、集中力を高めるためにも聞くことの大切さを伝えていきたいものです。

聞く力のある子は、理解力も高く、状況判断が出来、いろんな人や意見を受け入れ、ひいては異文化や異言語への適応もスムースにいきます。そのためには、

* 赤ちゃんからの要求を(おなかがすいた、おしめがぬれた、だっこしてほしいなど)

出来るだけ受け止めてあげる。(親子の信頼関係を作る基本になります。)

* 話しかけるときは、きちんと目を見てゆっくり、笑顔で!

* 感性を育てる。−太陽や風にふれたり、いろんな人に出会う散歩は欠かせませんね。

また、家庭で作る料理は、感性を育てる大きな役割をします

      お料理の匂い、まな板の音、あじわう、さわる、見て楽しむ。

* 感動したり、共感したことを、大人が言葉で表現してあげましょう。

   きもちいい風だね〜、いいかおりだね〜、

* 絵本の読み聞かせや物語りをたくさん聞かせましょう。

   充分なスキンシップとともに、人の声の暖かさに心が満たされます。

聞く力は子どもの心を育て、多様な環境に適応し、表現する力とともに子ども時代に育んであげたい大切な要素です。「いそがばまわれ」のことわざは、まさに子育ての心棒と思います。

大人は子どもの人格を尊重しながら、人と一緒に生きるための知恵をしっかり伝えていきましょう。

■聞くことができない子ども達

「日本の子ども達に何がおこっているの?」最近、アメリカの学校からたびたび言われる言葉です。

アトピーとともに増えつづけている日本の子ども達の変化、バランスよく発達していない、いわゆる発達のゆがみのある子ども達が急増しているのです。落ち着きのない子、指示が入らない子、感情をコントロールできない子など。

子ども達は集団生活を続けていくことで、ある程度は矯正されていきますが、個別の援助が必要です。 幼児教育の基本は、バランスよく発達できるように子ども達の環境を整えてあげる事です。

 

 

表現できる子どもは無限の可能性

早津邑子(NYこどもの国幼稚園園長)

表現力を育てる子育て

異文化で生活していると、いろんな場面で自分は何者であるか表現しなければならない時があります。自分の考えを人に伝える為に必要な言葉とコミニケーションスキル、それに伝えたい内容を持ち合わせていないとなかなか表現出来ません。その器を作るのは人格形成期の乳幼児期です。

乳幼児期に一番育てておきたいのは『意欲』です。自分で食べたい,お友達と遊びたい、いろんなことを学びたい、その意欲をどのように育てていけるかは、家庭や集団での環境が大きく作用します。子どものしたいことを先取りしてしまう。言いたいことを全部言わせる前にわかってしまう。自分で食べたいのに汚れるからと食べさせてしまう。子どものいろんな行動を知らず知らず規制していませんか。

いうまでもなく、意欲は子どもの心が安定していてはじめて育ちます。不安感は自信を喪失し、自分の殻に閉じこもり社会との接点を切り離していきます。子どもが成長していく際に欠かせない三要素である、家庭教育、学校教育、社会教育 が健全に環境の中にあって、はじめて子どもはすくすく育っていくのです。

では三要素のそれぞれの役割とは何でしょうか。

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「こどものくに幼稚園」の先輩ママ達が幼稚園25周年を記念して発行した本。「海外で幼児期を過ごすには」「NYの子育てで困ったこと悩んだこと」「子育てで配慮したこと」「海外体験の影響」「帰国後の適応」など、さまざまな体験記やアンケート調査結果が収録されていて、これから海外に行かれる方には、役立つ1冊。

【購入方法】
1.アメリカ国内:  こどものくに幼稚園へ直接申しこむ   
FAX:914−949−0247
E-mail: kk@kodomony.org
価格 送料込み1冊12ドル

2.日本国内:    取り扱い代理店「だるまちゃんの店」  

Tel.: (03)3379−9533
店頭価格 税込み1冊1000円

家庭教育 

家庭で育ててほしい子どもの感性

安心感――

自分の興味,関心を妨げられず、のびのび出来る。
赤ちゃんは自分の五感を使って何でも確かめます。赤ちゃんのまわりから危ないものを取り除き, 自由に動ける空間を作りましょう。

信頼感――

自分の発信した欲求を受け止めてもらえる。言葉になる以前の赤ちゃんの欲求に出来るだけ答えてあげましょう。

清潔にしてあげる。

いっぱい抱っこしてあげる。いろいろな種類の食べ物を食べさせる。

語りかける、一緒に遊ぶなど

満足感――

自分で出来た喜びを共感してくれる人がいる。

自分で食べた(こぼしても),洋服が着れた,など、出来たときにすぐほめる。

これらが満たされていれば、一見わけがわからないように見える2才前後でも、人に興味を持ったり好きなことに夢中になったり出来るものです。

 

学校教育―保育園、幼稚園

乳幼児に一番大切なことは、いうまでもなく自分を全面的に受け入れてくれる人がいることです。この要素は家庭だけではなく,初めての集団でも同じことが言えます。親の代わりである先生と信頼関係を持ち、安心して遊び、満足して生活していくうちに,子ども同士の関わりが深まり、世界が広がっていきます。子どもの世界を広げるコミニケーション能力は、体を使って思う存分遊んでいるうちに養われていきます。そして、、友達関係を上手に築くには『言葉』の重要性を意識、無意識にかかわらず体得していきます。言葉は子どもの成長発達を助ける道具としてとても重要です。複雑になっていく感情を言葉で表現し、人とコミニケーションをとることで思考言語が育っていきます。

また、親や先生が子ども一人一人のいいところを大いに誉めることによって、子どもが自分を好きになり、自信をもって集団生活を送ることが出来ます。その自信が相手を認め、思いやる豊かな心を育てる原動力になるのです。そして、子どもの強い分野や得意なことを増やしてあげることによって、より広い社会に適応できる素地を作ることが出来ます。

 

社会教育

幼児期、学齢期を通して子どもはその国の文化に色濃く影響されながら社会の中で育っていきます。家庭と社会、学校と社会、いろんな体験から、社会生活を送る上で必要な常識や決まりなどを学んでいきます。外国で生活する場合、子どもに一番欠けるのが社会教育と言えるでしょう。社会教育は家庭がその社会に入っていかないで、子ども一人を現地校に入れるだけでは十分ではありません。

子ども達の学習には必然的にその国の歴史や人物、常識として知っているはずの文化や生活の知識など、子どもだけではとても獲得していけない物がたくさん盛りこまれています。地域のいろんな人達との交流、ボランティアや施設利用を通してその国の文化に触れ、子どもの世界を広げていく努力は必要不可欠です。日本人が集中して住んでいる地域などは、親も子どもも日本人のみのお付き合いになりがちですが、毎日の生活の中で次のようなことに気をつけてみれば、近隣の方とも親しくなり、生活範囲が広がります。

近所の人と自分から挨拶を交わしましょう。

その土地の生活の仕方や知恵などを聞いてみましょう。

日常の買い物など、お店の人と親しくなりましょう。

地域の催し物に参加しましょう。

図書館や公共の施設を覗いてみましょう。

 

異文化適応が難しい子ども達

『小さな子どもは言葉を使わなくても遊べるから現地校でも大丈夫』という言葉をよく耳にします。この意味は『小さな子どもは言葉で不安を伝えたり、抵抗したりしないから現地校でも大丈夫』ということだと解釈してください。初めての集団に入るということは、家庭という安全な場所から、子どもが一人で生活していくことです。それぞれの性格や体験の違いから、わからないことを人に聞いたり,自分の欲求を伝えたりできない子どももいるのです。不安で不安で仕方がない状態を,何とか切り抜けていかなければならないと必死で集団に適応しようと頑張りますが、みんながうまくいくとは限りません。どのような理由が不適応症状を起こすのでしょう。

  1. はじめての集団生活への不安と、異文化体験との二重の不安

  2. 言葉の発達が早く、言いたいことがいえないなど自分の言葉が通じないことへの抵抗

  3. コミニケーションの方法がわからない

幼児の場合は自分の気持ちを言葉でうまく表現できないので、言葉以外の方法で心の中を表現していきます。では、どのような形で子どもは自分の不安感を伝えてくるのでしょう。

*泣く

泣くことで訴えられる子どもは大丈夫です。大人は泣くことは子どもの不安感の表現であると受け取り,その子の気持ちに寄り添ってあげられるからです。情けない我が子だと感じても絶対叱咤激励しないでください。子どもにとって親は最後の砦なのですから。

*暴力をふるう

数としては泣くお子さんに比べて少ないですが,お友達をぶったり蹴ったり噛んだりすることがあります。お友達と遊び方やコミニケーションの方法がわからないために生じる行為です。心が十分成長していない場合に多く見られます。

*表情が暗くなる

泣くことが出来ないお子さんがいることを知ってください。自分の置かれた状況もわからず過ごすうちに,意思表示が通じないであきらめてしまう子ども達です。集団の中ではおとなしく、特に手もかからないため放って置かれがちです。そんな状態で何ヶ月も過ごしていくうち、無気力になり人との関わりあいに関心を示さなくなります。お子さんを注意深く見守っていかないと気づきにくく、子どもの一生を阻害しかねない重大な現象です。

集団に不適応を起こした場合、放っておくと子どもの発達にゆがみが現れる場合があります。それゆえ、子どもからの信号に少しでも早く気づき、手遅れにならないうちに援助していきましょう。                    

   援助の方法                                             

  1. 日本語集団が近くにある場合は,出来るだけ早く移してあげましょう。そのうち慣れるからと放っておくと取り返しのつかない発達のゆがみが生じる場合があります。

  2. 日本語集団がない場合は,不適応の理由を探ってみましょう。理由として,早すぎる分離、不安、抵抗などがあります。そんな時は親子でゆっくり過ごすことも必要なので、何が何でも集団に入れなくてはと、あせらないでさい。 しかし、親だけで問題解決が出来ない場合は、迷わず専門家に相談しましょう。

 

世界にはばたく子ども達

二十一世紀に生きる子ども達は、より広い世界で活躍することは必死でしょう。そんな子ども達に必要な環境は、乳幼児期からの英語教育ではなく、自分の国の文化を誇りに思う心、自分を表現する力、多様な状況に対応できる行動力が育つ場です。行きつ戻りつする子どもの成長に欠かせないのは、急がず慌てずの子育てで、子ども達が忙しすぎる毎日は親の方向転換で簡単に解消されます。何かに取り組んでいないと不安で仕方がない症候群から開放されると、子どもの自主性や自律性が備わり、のびのびとした環境から意欲が湧き、想像力が育ちます。この想像力が知識を育み、行動力、創造力へと発展していくのです。

幼児期に自分の言葉で遊びこみ、心が沸き立つ楽しい体験をたくさんすることが異文化適応への近道だと思います。私達大人が出来ることは、英才教育という言葉やありすぎる情報に振り回されないで、しっかり自分の子どもを見つめ、理解していくことではないでしょうか。