幼児教育に携わって30年以上、時代の変遷とともに子ども達の生活スタイルもかなり変わってきました。物質的にとても豊かになったけれども、精神的な豊かさをどんどん失いつつある日本の姿を、子ども達の遊びを通して見えることが多くなりました。ニューヨークは東京を小さくしたような都市で、この30年ほどの間に、アトピー体質の子どもの異常な増え方や、子ども中心の生活を送っていらっしゃる家庭が増えたことに危機感を感じたりします。子どもの人権を尊重することと子ども中心の生活を送ることとは根本的に違います。子ども達の何が変わっていったのでしょう。
1.少子化のため、子ども達一人一人、自分の希望をかなえてもらえる場が多くなり(個室も含めて)、我慢をしなければならない機会が少なくなった。
2.自分の言いたいことを、表現できる子どもが多くなった反面、人の話を聞く態度が身についておらず、自己中心的な子が増えた。
3.好きなことには集中できるが、興味のないことには全く取り組もうとしない子どもが増えた。
この3点が一番大きく変わったと感じています。これらは現代の子ども達の長所でもあり、短所にもなっています。のびのび育っている子ども達が豊かな感受性や表現力に恵まれている反面、自分の言いたいことが終わったら、すぐに勝手なおしゃべりを始めてしまう場面を見ることも多々あります。我慢が出来ないことも、子ども中心、子ども優先の生活をしている弊害のように感じます。「個性を育てる」「主体性を大切に」などが叫ばれ、人と違うことが「個性」だと履き違えてしまったのではないでしょうか。子育ての場でも出来るだけ他の人との違いを強調したいとの願望が強くなったのは、日本経済が頂点を迎えるバブル期の始まりあたりだったと思います。
1970年代の一般のアメリカ人は、日本がどこにあるかも知らなかったし、ジャパンという言葉をテレビやラジオで聞くことも殆どありませんでした。極東の小さな島国は、1980年代、どん底のアメリカ経済と対照的な時代を迎え、豊かさの代表である「円」を世界中にばら撒きました。もちろん、その豊かさの中に子ども達も含まれていたのは言うまでもないことです。
そして、子ども達は、
* 学歴社会を反映して教育熱が高まり、塾の繁栄とともに家族で食卓を囲む機会を奪われた。
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子どもが欲しいと思ったものは、割合すぐに手に入り、「楽しみに待つ」体験を与えられずに育っている。
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小型のビデオカメラの開発とともに、子どもの成長の過程はビデオに残され、自分が中心の録画を見て育っている。
■あまりにも忙しい日本の子ども達
一般的に子どもの健やかな成長を望まない親はいないでしょう。小さい頃からいろんな習い事をさせるのは、「子どものよりよい成長と可能性」を願うからこそです。しかし、子どもの側から見ると、親の思いが強ければ強いほど迷惑な願いなのです。乳幼児期は自我が育つときで、自分で何でもやってみたい、出来るようになるためには何度も何度も同じことを繰り返すことが出来るゆったりした「自分の時間」と、必要なときはいつでも助けを求められる大人が側にいてくれる環境が必要です。「英才教育」、「早期教育」と言葉は、生活のゆとりを削ってまでも「うちの子も」とその気にさせるうたい文句が掲げられています。今では、1才、2才からの習い事も珍しくなくなりました。その結果、親子でゆっくり向かい合って遊んだり、不思議なことに出会って、何度も自分で確かめたりといった、自己実現の体験が充分なされないまま育っています。
お稽古事や習い事は自分で選択できる5、6才からでも決して遅くありません。学齢期前後の好奇心と探究心は、頭で考えたことが大体そのとおり表現出来る技術も身につく頃で、心身のバランスがある程度整う年齢です。お稽古事で自由な時間のない生活から、子どもを解放してあげましょう。
■子どもの成長には順番がある
乳幼児期は、教えれば何でも覚えていきますので、よく「赤ちゃんは天才」と言われます。でも、人格形成の大切な時期で、心を耕す時期に経験しておかないと後で取り戻すことが出来ないものがたくさんあります。では、どんな成長をするのが望ましい姿なのでしょう。
1.規則正しい生活― 早寝、早起きを心がけましょう。
バランスのよい食事をとる。食事の時間も短めに、よく噛んで。
2.身体を動かす − 歩く、走る、跳ぶ、転がるなど、適度な運動は全体の発達を促します。
3.楽しく遊ぶ − 安心して遊べる場で、思いっきり笑いましょう。
4.身辺自立 − 自分のことは自分でする習慣をつけましょう。
衣服の着脱、排泄、手洗い、自分で食べる、そして、お手伝いは
子どもの自信になります。
5.豊かな体験や経験―見る、聞く、味わう、触れる、感動する
子どもが体験や経験したことをすぐに共感してあげましょう。
6.聞く、話す − お話を聞いて楽しむ、自分の気持ちを言葉で表現する。
7.思考、模索するー 言葉と心を育み、学びたい気持ちを育てます。
早くに文字を読んだり、書いたり、英語の発音がよかったりしても、幼児期に基本的生活習慣の自立が出来ていないと、子ども自身の「生きる力」や「学ぶ楽しさ」につながっていかないのです。子ども時代に「自分で自分の事をする習慣」と「楽しい遊び」をしっかりしておけば、判断力や持続力、集中力、行動力を備えていきます。
■聞く姿勢を育てる意味
小さいときに周りの大人に振り回されず、ゆったり過ごせる環境で育ったお子さんは、自分でいろんな体験をしていますから、人としての受け皿が大きくなります。表現できる現代っ子たちの可能性は大きく広がっていますので、集中力を高めるためにも聞くことの大切さを伝えていきたいものです。
聞く力のある子は、理解力も高く、状況判断が出来、いろんな人や意見を受け入れ、ひいては異文化や異言語への適応もスムースにいきます。そのためには、
* 赤ちゃんからの要求を(おなかがすいた、おしめがぬれた、だっこしてほしいなど)
出来るだけ受け止めてあげる。(親子の信頼関係を作る基本になります。)
* 話しかけるときは、きちんと目を見てゆっくり、笑顔で!
* 感性を育てる。−太陽や風にふれたり、いろんな人に出会う散歩は欠かせませんね。
また、家庭で作る料理は、感性を育てる大きな役割をします
お料理の匂い、まな板の音、あじわう、さわる、見て楽しむ。
* 感動したり、共感したことを、大人が言葉で表現してあげましょう。
きもちいい風だね〜、いいかおりだね〜、
* 絵本の読み聞かせや物語りをたくさん聞かせましょう。
充分なスキンシップとともに、人の声の暖かさに心が満たされます。
聞く力は子どもの心を育て、多様な環境に適応し、表現する力とともに子ども時代に育んであげたい大切な要素です。「いそがばまわれ」のことわざは、まさに子育ての心棒と思います。
大人は子どもの人格を尊重しながら、人と一緒に生きるための知恵をしっかり伝えていきましょう。
■聞くことができない子ども達
「日本の子ども達に何がおこっているの?」最近、アメリカの学校からたびたび言われる言葉です。
アトピーとともに増えつづけている日本の子ども達の変化、バランスよく発達していない、いわゆる発達のゆがみのある子ども達が急増しているのです。落ち着きのない子、指示が入らない子、感情をコントロールできない子など。
子ども達は集団生活を続けていくことで、ある程度は矯正されていきますが、個別の援助が必要です。
幼児教育の基本は、バランスよく発達できるように子ども達の環境を整えてあげる事です。