精神的虐待経験者Sさんの場合

以下は虐待経験のあるS(38歳)さんが日記につけていたものを箇条書きにしたものです。1ページ目の虐待者の行動と一致する行動が数多く見られます。

S・・・とにかく、いつ、何に反応して怒り出すかがわからないので、常にビクビクしていました。話題も頭の中で二度回して「この話題の中に夫の気に触ることがないだろうか?」と反芻してから話していました。それでも、時には原因不明で夫の逆鱗に触れてしまうことがありました。そのようなわけのわからない出来事があった時は、悲しみを吐き出すために日記をつけていました。そんな出来事のほんの一部と私の気持ちをまとめてみました。

  • 外食に行くので何が食べたいか聞くので私が中華が食べたいと言ったら、自分勝手だと突然怒り出す。(夫はイタリアンが食べたかったのに、その気持ちを察しないことに腹が立ったらしい。)
  • 目玉焼きに火がとおり過ぎていたのを怒って、そのままゴミ箱に目玉焼きを捨て、私の注意不足で卵が無駄になったと長時間にわたって責める。
  • 夫が怒るのは私が悪いのだろうか何度も自分に問いかけてみた。
  • 1週間の半分を泣いて暮らしている。
  • 週末は必ず何か私の小さなミスを見つけ出しては勝手に不機嫌になって一人怒り続けるという感じ。おかけで私は一日中、憂鬱、不愉快、そして悲しくなる。
  • いただき物の商品券を差し出し「何か買いたいものがある?」と言うので「今は思いつかないけど、何か欲しいものを考えるね。ありがとう」と言うと、突然怒りの表情になって「自分のものを買うより、人に何かあげる喜びがあるでしょ。」と憮然。
  • セックスを断ると数日間無視し不機嫌な顔。小さいミスを見つけては怒鳴る。
  • 夫「アップルパイ全部食べちゃったの?」私「私は食べてないよ。」と答えた途端「なんで、おまえはいつも自己防衛ばかりするんだ。」と怒り出す。
  • 妊娠中、胃がいつもむかむかしていて、義理の母が出してくれたマカロニチーズに手がつけられなかったら、家に帰って怒鳴られた。
  • ついに離婚を言い出すと手紙を渡された。内容は「子どもは簡単にはわたさない。」「シングルマザーの生活は、おまえが想像を絶する大変さだぞ。」「おれはお前にとって最悪の敵になるぞ」・・・それを読んで手は震え心が凍りつく。
  • 誕生日のプレゼントを見て「これは俺のことをよく考えないで適当に買ったに違いない。」と言ってプレゼントを床に投げ捨て、その後1週間口をきかない。
  • 俺を尊敬していない、俺に忠誠心がない、真心がないと言う。
  • 今日も恐怖の週末。
  • 買ってきたスプーンが気に食わないと怒り出す。2日間無視。
  • 出張中、留守電にため息だけ残す。
  • 夫が出したジュースの箱を間違って冷蔵庫にしまった烈火のごとく怒る。
  • 私はいろんなことに自己嫌悪になってゆく。やっぱり私はいい加減過ぎる人間なんだろうか。考えが足りない。抜けている。不注意。愛失格、親失格、人間失格。何もかも嫌になる。明日、起きるのさえ怖い。
  • 一度機嫌をそこねると一日中何かにつけて文句を言う。生き地獄。
  • 何が原因で爆発するかわからない爆弾を抱えているようなもの。彼が私の名前を呼ぶだけでビクビクする。
  • 大爆発は3ヶ月起こっていない。そのかわり、今度は無言の仕打ち。氷のような視線。
  • 鉛筆がうまく削れないと私にその鉛筆を投げつけた。
  • 家族旅行では子供たちが言うことをきかないと怒り出す。
  • 夜夫が寝た後にコンピューターを見ていたら夫が突然、二階のベッドルームから、ものすごい勢いで降りてきて「おまえにせいで寝られない。」(音はまったく立てていないのに)、「コンピューターを壊すぞ」と傍にあった椅子を床に何度も打ち付ける。
  • 怒鳴り出すととまらない。顔を歪め下あごを突き出し、私の顔に思い切り近づいて大声で怒鳴る。
  • いつも怒鳴ったて無視した数日後に悪かったと謝る。

8年間、私は以上のような夫の態度に苦しんできました。なぜ離婚しなかったのか。それは後から学んだことですが、虐待者の態度にはサイクルがあるからなのです。とても優しい時期、そして切れて怒鳴りまくる時期。まるでジギルとハイドのような二つの人格が時には2週間おきに、時には数ヶ月おきに入れ替わります。ハイドの人格が現れた直後は離婚するしかないと思うのですが、謝罪されジギルの穏やかさが、少しの間でも戻ると子どものためにも我慢しよう。それに、もしかしたら、このまま穏やかな日々が続くのではないかと思ってしまうのです。

なんとか情況を改善しようと話し合いをしても、夫はすぐに「おまえは俺が全部悪いと、いつも決め付ける。自分勝手なやつだ。」と逆切れしました。

普通の状態では夫は私の苦しみがわかってくれないと思い、些細なことで怒鳴りまくられたある晩、私は一か八かの賭けで(ダメだったら家を出る覚悟で)一芝居うちました。普段はほとんど飲まないのですが、ある晩、意図的に酔っ払うためにウィスキーを一本あけました。夫の前で酔った姿など見せたことのない私が、べろんべろんに酔っ払った私を見れば、どんなに私が苦しんでいるかわかるのではないかと思ったのです。ひどく酔った私は泣いて夫に訴えました。今までの結婚生活は私にとって地獄のような日々だったということを、死んだ方がましだと思っていることを。

夫は初めて私の気持ちを知りました。(信じられないことですが、それまで夫は私が幸せだと信じていたのです。)そしてカウンセリングに行くことを承知しました。

その後は長い長い道のりでしたので省きますが、さらに5年かけて夫は随分良い方向に変わりました。今は比較的穏やかな生活を送っています。ただ、14’年も我慢し続けてきた価値がこの結婚にあったのかは、今でも私はわかりません。

特に、最初の辛い時期に上の子が生まれ、私はいつも悲しみと怒りという自分の心の葛藤の中で子育てをしていたように思います。誰にも言えないフラストレーションを知らない間に子どもに向けていたように思うのです。夫への恐れと怒りで気持ちに余裕をもって子育てできなかった自分が悔やまれると同時に、そのような状態に私を追い込んだ夫への恨みを感じます。

そして今は、夫は変わったとは言え、どうしても昔の仕打ちがフラッシュバックのように私の脳裏をかすめ、夫を許せない自分もいるのです。これから、また十数年とうい時を 経たら私たちは良い夫婦になれるのでしょうか。過去の夫を許すことが今の私の課題です。


【虐待のサイクル】

DVは一度だけの出来事ではなく、普通以下のようなサイクルで繰り返し起こります。

○言葉の暴力などがあり犠牲者は「まるで卵の殻の上を歩くようだ」と感じ、、自分ではどうしてようもできないと感じ、重い苦しい雰囲気が高まる

○高まった緊張感が爆発し、虐待者は激しい言葉を発し(精神的虐待)、身体的暴力、性的暴力を行い、それは数分から数日にわたって続く。

○ハネムーン期
虐待者は悔い、気を使う。被害者は、最初に好きになった頃の彼だと再確認し、彼の変わるという言葉を信じる。

<虐待のサイクル>

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